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病院・クリニック経営

分院展開とMS法人の法務 ― 分院ごとの管理者配置と理事長の兼務の限界(医療法10条・12条)、MS法人取引の価格の妥当性と役員兼任

本院の経営が安定し、「2院目を出したい」「不動産や物品購入はMS法人(メディカルサービス法人)に持たせたい」と考える理事長は少なくありません。しかし分院には必ず別の管理者を置かなければならず、MS法人との取引は都道府県に開示されて価格の妥当性が問われます。この記事では、分院ごとの管理者の配置(医療法10条・12条)、理事長の兼務の限界、分院開設に必要な定款変更と開設許可、MS法人との取引の範囲と価格の妥当性、役員兼任の整理を、条文と厚生労働省の資料に沿って解説します。

この記事の結論

分院には臨床研修等を修了した医師の管理者を1施設ごとに置く必要があり、管理者は原則として他の病院・診療所を管理できないため(医療法10条・12条2項)、理事長が本院と分院の院長を兼ねることはできません。分院の管理者は理事に加え(46条の5第6項)、開設には定款変更の認可(54条の9)と診療所の開設許可(7条1項)、保険医療機関の指定申請が必要です。MS法人との取引は、一定規模のものが「関係事業者との取引の状況に関する報告書」(51条1項・同法施行規則32条の6)で都道府県に開示され、市場価格を上回る取引は剰余金配当の禁止(54条)に反する「配当類似行為」と評価されるおそれがあります。

分院展開の全体像 ― 法人内手続・行政手続・保険診療の3層

分院展開は、①法人内部の意思決定(理事会・社員総会)、②都道府県・保健所の手続(定款変更の認可、診療所の開設許可)、③地方厚生局の手続(保険医療機関の指定、施設基準の届出)の3層で進みます。本院の開業時と異なるのは、法人による開設は「届出」ではなく「許可」であること、分院の追加が定款変更に当たること、分院の管理者を確保しなければ開設できないことです。

層手続根拠留意点
①法人内部理事会の決議(重要な組織の設置)、社員総会の定款変更決議医療法46条の7第3項4号・54条の9第1項理事に委任できない専決事項。議事録の整備が必須
②都道府県定款変更の認可申請(開設する診療所の名称・開設場所の追加)医療法44条2項3号・54条の9第3項認可を受けなければ変更の効力が生じない
②保健所等分院(診療所)の開設許可申請医療法7条1項医師でない者(法人)の開設は許可制。管理者の確定と非営利性の確認
③地方厚生局分院の保険医療機関の指定申請、施設基準の届出健康保険法63条3項1号・65条指定日は原則として申請の翌月1日。管理者は健康保険法70条の2の要件を満たす保険医
ポイント

分院計画で最初に確定すべきなのは物件ではなく「分院の管理者を誰にするか」です。管理者の確保、理事就任、健康保険法上の管理者要件の確認ができなければ、定款変更も開設許可も進みません。

分院ごとの管理者の配置と理事長の兼務の限界(医療法10条・12条・46条の5)

病院・診療所の開設者は、医業を行う施設については臨床研修等を修了した医師に、これを管理させなければなりません(医療法10条1項)。管理者は、都道府県知事の許可を受けた場合を除き、他の病院・診療所を管理しない者でなければなりません(同法12条2項)。許可の対象は、医師不足地域の診療所、介護老人保健施設等に開設する診療所、事業所内診療所、休日・夜間診療所など限定的で(同項1号〜5号)、通常の分院展開で本院の院長が分院も管理することは認められません。理事長が本院の管理者であれば、分院には別の医師を管理者として置く必要があります。

分院の管理者は、医療法人の理事に加えなければなりません(46条の5第6項)。2以上の施設を開設する法人が知事の認可を受けたときに限り、一部の管理者を理事に加えないことができますが、厚生労働省の運営管理指導要綱は、施設が隣接する場合や遠隔地にある場合などを例示しています。管理者が職を退けば理事の職も失うため(同条7項)、分院長の退職は役員構成に直結します。

さらに、2026年4月1日からは保険医療機関の管理者に、保険医であること、医師の場合は臨床研修修了後に病院の保険医療機関で保険医として3年以上診療に従事した経験(又は厚生労働省令で定める要件)が求められています(健康保険法70条の2第1項)。分院長候補の採用では、この要件の充足を雇用契約締結前に確認する必要があります。管理者は従業者を監督し管理運営に必要な注意をする義務を負います(医療法15条1項、健康保険法70条の2第2項)。

ポイント

分院長との契約では、理事就任(任期2年)と管理者就任を一体で設計し、退職予告期間、引継ぎ義務、退職後の近隣での開業や患者・職員の引抜きへの対応をあらかじめ定めておくことが、分院の存続リスクを下げます。

定款変更の認可・開設許可・保険医療機関の指定(医療法54条の9・7条、健康保険法65条)

医療法人の定款には、開設する病院・診療所の名称と開設場所を記載しなければならないため(医療法44条2項3号)、分院の追加は定款変更に当たります。社団たる医療法人の定款変更は社員総会の決議により(54条の9第1項)、厚生労働省令で定める軽微な事項を除いて都道府県知事の認可を受けなければ効力を生じません(同条3項)。

分院の開設は、臨床研修等修了医師でない者(医療法人)による診療所の開設として、開設前に都道府県知事等の許可が必要です(7条1項)。営利目的の開設には許可を与えないことができ(同条7項)、通知「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(平成5年2月3日総第5号・指第9号)に沿って、第三者からの資金提供や営利法人の関与が運営に影響しないかが確認されます。

開設後は、分院について保険医療機関の指定を申請します(健康保険法65条1項)。地方厚生局の運用では指定日は原則として申請した翌月1日で、施設基準の届出も分院ごとに必要です。理事会では、重要な組織の設置(46条の7第3項4号)として分院開設を決議し、多額の借財(同項2号)に当たる設備投資の資金調達も理事会決議事項になります。議事録と認可・届出書類は、後の立入検査(63条)で確認される基本資料です。

MS法人とは何か ― 医療法人に代わって担える業務の範囲

MS法人は法律上の制度ではなく、医療機関の経営に関連する業務を行う株式会社等の営利法人を指す実務上の呼称です。医療法人が行える業務は、本来業務である病院・診療所等の開設と、定款に定めた附帯業務(医療関係者の養成、研究所の設置、保健衛生に関する業務、有料老人ホームの設置など。医療法42条)に限られ、社会医療法人以外は収益業務を行えません(42条の2)。そのため、不動産賃貸、物品販売、経営コンサルティング、給与計算等の事務受託など、医療法人では行いにくい事業をMS法人が担う構造が生まれます。

ただし、MS法人が担えるのは医療行為以外の周辺業務であり、医療法人の意思決定を代替することはできません。前述の非営利性確認の通知は、開設者が実質的に経営の責任主体であること、人事権や労働条件の決定権を開設者が掌握していること、営利法人等の役職員との兼務が医療機関の開設・経営に影響を与えないこと、土地建物の貸借料が医療機関の収入の一定割合となる契約でないことなどを確認事項としています。MS法人が人事を事実上決めている、売上連動の委託料で利益を吸い上げているといった状態は、この通知に反する「営利法人による実質的な経営」に近づきます。

MS法人との取引の範囲と価格の妥当性 ― 関係事業者取引の開示と利益相反

医療法人は、毎会計年度終了後2か月以内に作成する事業報告書等の一つとして、「関係事業者との取引の状況に関する報告書」を作成し(医療法51条1項)、3か月以内に都道府県知事へ届け出なければなりません(52条1項)。関係事業者の範囲と対象取引は医療法施行規則32条の6に定められています。

項目内容(医療法施行規則32条の6)
関係事業者となる者①法人の役員又はその近親者(配偶者・二親等内の親族)、②役員・近親者が代表者である法人、③役員・近親者が株主総会・社員総会・取締役会等の議決権の過半数を占める法人、④他の法人の役員が当該医療法人の社員総会・理事会の議決権の過半数を占める場合のその法人 など
報告対象となる取引事業収益・事業費用が1,000万円以上かつ総額の10%以上を占める取引、事業外収益・費用が1,000万円以上かつ総額の10%以上の取引、特別利益・特別損失1,000万円以上の取引、資産・負債が総資産の1%以上かつ1,000万円超の残高となる取引、資金貸借・固定資産や有価証券の売買等の総額が1,000万円以上かつ総資産の1%以上の取引、事業の譲受け・譲渡で1,000万円以上かつ総資産の1%以上の取引

報告書は都道府県知事の閲覧に供されるため(52条2項)、理事長の配偶者が代表を務めるMS法人への賃料・委託料は、行政と第三者の目に触れる前提で設計しなければなりません。価格の妥当性については、運営管理指導要綱が土地建物の賃借料は「近隣の土地、建物等の賃借料と比較して著しく高額でないこと」と定め、医療法54条の剰余金配当の禁止は「剰余金に類するもの」にも及ぶとしています。市場価格を超える部分は実質的な利益の分配(配当類似行為)と評価され、過料(93条8号)や是正指導の対象になり得ます。

理事がMS法人の代表者を兼ねている場合、医療法人とMS法人の取引は理事の利益相反取引に該当し、理事会で重要な事実を開示して承認を受け、取引後に遅滞なく報告しなければなりません(医療法46条の6の4で準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律84条、運営管理指導要綱)。承認を得ない取引で理事や第三者が得た利益は法人の損害と推定され(47条2項)、取引によって損害が生じたときは、取引をした理事、決定した理事、承認決議に賛成した理事が任務を怠ったものと推定されます(同条3項)。

ポイント

MS法人取引の適法性を支えるのは「市場価格の根拠」と「理事会の承認記録」です。賃料は近隣相場の査定、委託料は業務内容・工数の見積りを文書化し、毎年の関係事業者取引報告書と整合させてください。

役員兼任の整理と非営利性との線引き ― 違反したときの行政の対応

運営管理指導要綱は、医療法人と関係のある特定の営利法人の役員が理事長に就任したり、役員として参画していることは「非営利性という観点から適当でない」と明記しています。非営利性確認の通知も、開設者である法人の役員が、開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務する場合は、医療機関の開設・経営に影響を与えないことを求めています。実務上は、①MS法人の代表者を理事長以外の親族にする、②理事長・理事がMS法人の役員を兼ねる場合は取引ごとに利益相反の承認を取る、③監事はMS法人と無関係の第三者にする(監事は理事・職員を兼ねられず、他の役員と親族等の関係にある者も不適当とされる。46条の5第8項、指導要綱)、という整理が基本です。

都道府県知事は、法人の業務や会計が法令・定款に違反し、又は運営が著しく適正を欠く疑いがあるときは、報告を求め、立入検査を行うことができます(医療法63条1項)。違反が認められれば期限を定めた措置命令、従わなければ業務停止命令や役員の解任勧告(64条)、他の方法で監督目的を達成できないときは設立認可の取消し(65条)に至ります。MS法人取引が配当類似行為と判断されれば、是正は取引価格の見直しや過去分の精算に及ぶことがあります。業務の実態と対価の均衡を先に整えてください。

詳しくは事務所本体サイトのコラム「MS法人(メディカルサービス法人)を活用する際の留意点」「医療法人の設立・分院展開で押さえておきたい法務のポイント」もご覧ください。

よくある質問(FAQ)

理事長が本院と分院の院長を兼ねることはできますか?
原則としてできません。病院・診療所の管理者は、都道府県知事の許可を受けた場合を除き、他の病院・診療所を管理しない者でなければならないとされています(医療法12条2項)。通常の分院展開では分院ごとに別の管理者を置く必要があります。
分院の院長は必ず理事にしなければなりませんか?
医療法人は開設する全ての病院・診療所等の管理者を理事に加えなければなりません(医療法46条の5第6項)。2以上の施設を開設する法人が都道府県知事の認可を受けた場合に限り、一部の管理者を理事に加えないことができます。管理者を退けば理事の職も失います(同条7項)。
分院の開設にはどのような手続が必要ですか?
理事会・社員総会の決議を経て定款変更の認可を都道府県知事から受け(医療法54条の9)、法人として診療所の開設許可を受け(7条1項)、開設後に地方厚生局へ保険医療機関の指定申請と施設基準の届出を行います。
MS法人はどのような業務を行えますか?
不動産の賃貸、医薬品・医療材料以外の物品販売やリース、経営コンサルティング、給与計算や事務の受託など、医療行為以外の周辺業務です。医療法人の人事権を実質的に握る形になると、非営利性確認の通知に反して問題になります。
MS法人との取引はどこまで都道府県に報告されますか?
役員やその近親者(配偶者・二親等内の親族)が代表者又は議決権の過半数を占める法人との取引のうち、事業収益・費用が1,000万円以上かつ総額の10%以上を占める取引、特別利益・特別損失1,000万円以上の取引など、医療法施行規則32条の6に定める規模のものが「関係事業者との取引の状況に関する報告書」として届け出られ、閲覧の対象になります。
MS法人への賃料や委託料はどのように決めればよいですか?
運営管理指導要綱は、賃借料が近隣の土地・建物の賃借料と比較して著しく高額でないことを求めています。賃料は近隣相場の査定資料、委託料は業務内容と工数に基づく見積りを文書化し、理事がMS法人の役員を兼ねる場合は理事会で利益相反取引の承認を得て議事録に残してください。
理事長の配偶者をMS法人の代表にしても問題ありませんか?
配偶者は近親者に当たるため、その法人は関係事業者として取引が報告対象になります。禁止ではありませんが、取引価格が市場水準を超えれば配当類似行為と評価されるおそれがあり、理事長自身がMS法人の役員を兼ねる場合は利益相反の承認が必要です。

まとめ

  • 分院には臨床研修等修了医師の管理者を1施設ごとに置き、管理者は原則として他の施設を管理できない(医療法10条・12条2項)。理事長による分院長の兼務は認められない。
  • 分院の管理者は理事に加える(46条の5第6項)。2026年4月からは健康保険法70条の2の管理者要件を満たす保険医でなければならず、分院長候補の採用前に確認する。
  • 分院開設は、理事会決議、社員総会の定款変更決議と知事の認可(54条の9)、法人による診療所の開設許可(7条1項)、保険医療機関の指定申請の順で進む。
  • MS法人との取引は、医療法施行規則32条の6の規模に達すると関係事業者取引報告書で都道府県に開示される。賃料・委託料は近隣相場・業務実態に基づく根拠を文書化し、理事会で利益相反の承認を得る。
  • 市場価格を超える取引は剰余金配当の禁止(54条)に反する配当類似行為と評価され、立入検査・措置命令・認可取消しに進み得る。

当事務所は、医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士を含む企業法務の弁護士チームとして、分院展開の手続設計、分院長との契約、MS法人との取引条件の整備を支援しています。継続的なご相談は顧問弁護士サービスをご覧いただき、分院計画やMS法人の見直しのご相談はお問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。チャット・オンラインで全国に対応しています。

参考(一次情報)
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この記事の執筆者
弁護士・医師 澄川 淳矢弁護士法人 越水法律事務所 弁護士・医師(第一東京弁護士会)

京都大学医学部卒業、倉敷中央病院での初期研修を修了した医師であり、弁護士。医療現場での経験を背景に、病院・クリニック・介護事業者・医薬品・医療機器・ヘルステック企業の法務について、医療の実態を踏まえた実践的な助言を行う。

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越水 遥
この記事の監修者
代表弁護士 越水 遥弁護士法人 越水法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会)

大手法律事務所を経て越水法律事務所を設立。企業法務全般、M&A、ファイナンス、スタートアップ支援を手がけ、東証グロース上場企業の社外取締役も務める。医療機関・ヘルスケア企業の顧問として、経営の視点を踏まえた法務支援を行う。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

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