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病院・クリニック経営

医療法人の設立と運営の基本 ― 設立認可の流れ、社員総会・理事会・監事、理事長の医師要件、事業報告書等の届出と配当禁止

個人開業のクリニックが軌道に乗ると、「医療法人にした方がよいのか」「設立したら何が変わるのか」という相談が増えます。医療法人は税務上の選択肢として語られがちですが、実際には医療法が定める組織を動かし、毎年の届出をこなし、非営利性を守り続ける義務を負う制度です。この記事では、医療法人の設立認可の流れ、社員総会・理事会・監事の役割、理事長の資格(医療法46条の6)、定款、事業報告書等の届出(52条)、非営利性と剰余金配当の禁止(54条)を、条文と厚生労働省の資料に沿って整理します。

この記事の結論

医療法人は都道府県知事の認可(医療法44条)と設立登記(46条)で成立し、設立後は社員総会・理事(3人以上)・理事会・監事(1人以上)を置き(46条の2・46条の5)、理事長は原則として医師・歯科医師の理事から選ばなければなりません(46条の6)。毎会計年度終了後2か月以内に事業報告書等を作成し(51条)、3か月以内に都道府県知事へ届け出る義務(52条)があり、剰余金の配当は禁止されています(54条)。

医療法人とは ― 法人化で何が変わるか、医療法人の類型

医療法人は、病院、医師・歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団が、医療法の規定により法人となったものです(医療法39条)。法人化すると開設者が院長個人から法人に変わり、契約・資産・雇用の主体も法人になります。個人の判断で経営できた状態から、社員総会・理事会の決議と都道府県への届出に基づいて運営する状態への移行です。

類型概要実務上のポイント
社団たる医療法人(持分なし)社員の出資持分がない社団。2007年4月施行の改正医療法以降に新設できるのはこの類型のみ残余財産の帰属先は国・地方公共団体・他の医療法人等に限られる(44条5項)
基金拠出型医療法人持分なし医療法人のうち、定款で基金(拠出者に返還義務を負う財産)の募集を定めたもの設立時の資金を基金として受け入れ、剰余金を使って返還できる
経過措置医療法人(持分あり)改正法施行前に設立され、定款に残余財産の帰属規定がない等の社団。当分の間存続出資者の退社時の払戻しや相続税の問題があり、持分なしへの移行計画の認定制度がある
ポイント

これから設立できるのは持分なしの医療法人です。「法人化すれば財産を家族に残せる」という発想は現行制度には当てはまらず、退職金や役員報酬など適法な方法で設計する必要があります。

設立認可の流れ(医療法44条〜46条)― 定款作成から登記、医療機関の開設許可まで

医療法人は、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けなければ設立できません(医療法44条1項)。設立認可の事務は都道府県が行い、厚生労働省は申請手続を主たる事務所の所在地の都道府県に問い合わせるよう案内しています。定款には、目的、名称、開設する病院・診療所等の名称と開設場所、資産及び会計・役員・理事会・社員総会及び社員資格の得喪・解散・定款変更に関する規定、公告の方法など法定の事項を定めます(同条2項)。設立当初の役員も定款で定めます(同条4項)。

知事は資産要件(41条)と定款の法令適合を審査し、都道府県医療審議会の意見を聴いて認可を決定します(45条)。認可後、設立の登記によって法人が成立します(46条1項)。

手順内容根拠・備考
1 事前準備定款案の作成(厚生労働省の「社団医療法人定款例」に準拠)、設立総会、役員・社員の確定、拠出財産の整理医療法44条2項・4項。多くの都道府県で受付時期が定められている
2 認可申請都道府県知事へ設立認可申請。資産要件・定款の審査、医療審議会への諮問医療法44条1項・45条
3 設立登記認可後、主たる事務所所在地で設立登記。登記により成立医療法46条1項、組合等登記令
4 医療機関の開設法人として診療所の開設許可(医師でない者の開設)を受け、個人診療所は廃止届医療法7条1項・9条1項
5 保険医療機関の指定開設者が個人から法人に変わるため、保険医療機関の指定を新たに申請(遡及指定の運用あり)健康保険法65条、地方厚生局の取扱い

法人成立後に「法人が診療所を開設する」手続と「保険医療機関の指定を取り直す」手続が続く点は見落とされがちです。開設者が変わると保険医療機関の指定も新たに必要となり、地方厚生局は一定の要件のもとで旧診療所の廃止日と連続する遡及指定を認める運用をしています(令和8年6月5日保医発0605第2号)。設立登記の時期と診療所の切替日を厚生局の締切に合わせて設計してください。

社員総会・理事会・監事の役割(医療法46条の2〜46条の8)

社団たる医療法人は、社員総会、理事、理事会及び監事を置かなければなりません(医療法46条の2第1項)。株式会社に似た構造ですが、社員は出資額ではなく各1個の議決権を持つ点(46条の3の3第1項)が大きく異なります。

社員総会

社員総会は、医療法に規定する事項と定款で定めた事項について決議します(46条の3第1項)。理事長は少なくとも毎年1回定時社員総会を開き(46条の3の2第2項)、総社員の5分の1以上から請求があれば20日以内に臨時社員総会を招集しなければなりません(同条4項)。招集通知は会日の5日前までに目的事項を示して行い(同条5項)、定款に別段の定めがなければ総社員の過半数の出席で開き、出席者の議決権の過半数で決します(46条の3の3第2項・3項)。特別の利害関係を有する社員は議決に加われません(同条6項)。

理事会

理事会は全ての理事で組織し、業務執行の決定、理事の職務執行の監督、理事長の選出・解職を行います(46条の7第1項・2項)。重要な資産の処分・譲受け、多額の借財、重要な職員の選任・解任、重要な組織の設置・変更・廃止は理事に委任できず理事会で決めます(同条3項)。分院の開設や院長の採用がこれに当たります。

監事

監事は、法人の業務と財産の状況を監査し、毎会計年度、監査報告書を作成して会計年度終了後3か月以内に社員総会と理事会に提出します(46条の8第1号〜3号)。不正や法令・定款違反の重大な事実を発見したときは都道府県知事・社員総会・理事会に報告し(同条4号)、理事会に出席して必要があれば意見を述べる義務があります(46条の8の2第1項)。

理事長の資格と役員の要件(医療法46条の5・46条の6)

  • 員数:役員として理事3人以上及び監事1人以上を置かなければなりません。理事については都道府県知事の認可を受けた場合に1人又は2人で足ります(46条の5第1項)。厚生労働省の運営管理指導要綱では、この認可は医師・歯科医師が常時1〜2人勤務する診療所を1か所のみ開設する法人に限るとされています。
  • 選任・任期:社団では社員総会の決議で選任し(同条2項)、任期は2年を超えることができません(再任可。同条9項)。
  • 管理者の理事就任:法人が開設する全ての病院・診療所等の管理者を理事に加えなければなりません(同条6項)。複数の施設を開設する場合、知事の認可を受ければ一部の管理者を理事に加えないことができます。管理者の職を退くと理事の職も失います(同条7項)。
  • 監事の兼任禁止:監事は当該法人の理事又は職員を兼ねることができません(同条8項)。運営管理指導要綱は、他の役員と親族等の特殊の関係がある者も監事に適さないとしています。
  • 理事長:理事のうち1人を理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出します(46条の6第1項)。都道府県知事の認可を受けた場合に限り医師・歯科医師でない理事から選出でき、指導要綱は理事長死亡時に子女が医学部在学中等の場合や、安定的な運営を損なうおそれがないと知事が認める場合を挙げています。理事長は法人を代表します(46条の6の2第1項)。
  • 利益相反と責任:理事が法人と利益相反する取引をするには理事会で重要な事実を開示して承認を受ける必要があり(46条の6の4で準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律84条)、任務を怠った理事・監事は法人に対し損害賠償責任を負います(47条1項)。
ポイント

役員は「人数をそろえる」だけでなく、2年ごとの改選、管理者の理事就任、監事の独立性、親族以外の第三者が入る構成までが都道府県の確認対象です。改選漏れや退任した管理者が理事に残っている例は、立入検査で指摘されやすい典型です。

定款・事業報告書等の届出と経営情報の報告(医療法51条・52条・54条の9)

会計年度は原則4月1日から翌年3月31日まで(53条)で、毎会計年度終了後2か月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書その他厚生労働省令で定める書類(事業報告書等)を作成しなければなりません(51条1項)。事業報告書等は監事の監査(同条4項)と理事会の承認(同条6項)を受け、社員総会に提出して貸借対照表・損益計算書の承認を受けます(51条の2)。そのうえで、会計年度終了後3か月以内に事業報告書等と監事の監査報告書を都道府県知事に届け出ます(52条1項)。届出を怠ると20万円以下の過料の対象です(93条7号)。

「関係事業者との取引の状況に関する報告書」は、理事長の配偶者が代表者である法人など、法人又はその役員と特殊の関係がある者との取引を開示するものです。医療法施行規則32条の6は、役員やその近親者(配偶者・二親等内の親族)、これらの者が代表者又は議決権の過半数を占める法人を関係事業者とし、事業収益・費用で1,000万円以上かつ総額の10%以上を占める取引、特別利益・特別損失1,000万円以上の取引などを報告対象としています。MS法人との取引はこの報告書を通じて行政の目に触れます(関連記事:MS法人(メディカルサービス法人)を活用する際の留意点)。

さらに、2023年の健康保険法等改正(令和5年法律第31号)による医療法改正で、医療法人は病院・診療所ごとの経営情報(収益・費用等)を都道府県知事に報告する制度が設けられ、厚生労働省の案内では事業報告書等と同じく会計年度終了後3か月以内(外部監査対象法人の経営情報は4か月以内)に、医療法人経営情報データベース(MCDB)への入力等により報告するとされています。

定款の変更は社員総会の決議により(54条の9第1項)、省令で定める軽微な事項を除いて都道府県知事の認可を受けなければ効力を生じません(同条3項)。診療所の名称・場所の変更や分院の追加は定款変更認可が必要な典型例です。役員の変更は都道府県知事への届出、資産の総額は毎会計年度終了後の変更登記が必要で、会計帳簿等は閉鎖から10年間保存します(50条の2第2項)。

非営利性と剰余金配当の禁止(医療法54条)― 違反したときの行政の対応

医療法人は、剰余金の配当をしてはなりません(医療法54条)。違反には20万円以下の過料が定められ(93条8号)、運営管理指導要綱は「剰余金に類するものも同様」と明記しています。実務で問題になるのは、職務の実態に比して著しく高額な役員報酬、親族会社への相場を大きく上回る委託料や賃料、法人資金の個人的な貸付けといった「配当類似行為」です。指導要綱は、法人と関係のある営利法人の役員が理事長や役員として参画することは非営利性の観点から適当でないこと、賃借料は近隣と比較して著しく高額でないことなども挙げています。

法令・定款違反や著しく適正を欠く運営の疑いがあるとき、都道府県知事は報告を求め、事務所に立ち入って検査することができます(63条1項)。違反が認められれば期限を定めた措置命令、従わないときは業務の全部又は一部の停止命令や役員の解任勧告(64条)、他の方法で監督の目的を達成できないときは設立認可の取消し(65条)に進みます。届け出た事業報告書等は都道府県知事の閲覧に供されるため(52条2項)、関係事業者取引は第三者に見られる前提で設計してください。分院展開を含む法人運営は「医療法人の設立・分院展開で押さえておきたい法務のポイント」もご覧ください。

よくある質問(FAQ)

医療法人の設立にはどのくらいの期間がかかりますか?
設立認可は都道府県知事が都道府県医療審議会の意見を聴いて行い(医療法45条)、認可後の設立登記で成立します(46条)。多くの都道府県で受付時期が定められているため、希望時期から逆算して定款案・役員・資産の整理を早めに始め、成立後の開設許可と保険医療機関の指定申請も見込んでください。
理事長は必ず医師でなければなりませんか?
原則として、理事長は医師又は歯科医師である理事のうちから選出します(医療法46条の6第1項)。都道府県知事の認可を受けた場合に限り、医師・歯科医師でない理事から選出できますが、理事長死亡時の配偶者の一時的な就任や、候補者の経歴等から安定的な運営を損なうおそれがないと知事が認める場合などに限られています。
理事と監事は何人必要で、親族だけで構成できますか?
理事3人以上、監事1人以上が必要です(医療法46条の5第1項)。監事は理事や職員を兼ねることができず(同条8項)、厚生労働省の運営管理指導要綱では他の役員と親族等の特殊の関係がある者は監事に適さないとされています。監事には第三者を選任する必要があります。
社員総会は年に何回開く必要がありますか?
理事長は少なくとも毎年1回、定時社員総会を開かなければなりません(医療法46条の3の2第2項)。決算の承認(51条の2第3項)や役員改選の議案があるため、実務上は決算後3か月以内の届出に合わせて開催します。
事業報告書等の届出はいつまでに行いますか?
毎会計年度終了後2か月以内に事業報告書等を作成し(医療法51条1項)、監事の監査と理事会の承認、社員総会への提出を経て、会計年度終了後3か月以内に都道府県知事へ届け出ます(52条1項)。届出を怠ると20万円以下の過料の対象です(93条7号)。
医療法人は役員に報酬や退職金を支払えますか?
支払えます。医療法54条が禁止するのは剰余金の配当であり、職務の対価として相当な範囲の報酬・退職金は禁止されていません。ただし、職務の実態に比して著しく高額な報酬は配当類似行為として指導対象になり得るため、決議と金額の根拠を記録に残してください。
理事長の親族の会社に業務を委託することはできますか?
禁止はされていませんが、関係事業者との取引として一定規模のものは「関係事業者との取引の状況に関する報告書」で開示され(医療法51条1項、同法施行規則32条の6)、都道府県の閲覧対象になります。委託料・賃料が市場価格と比べて著しく高額であれば、実質的な利益の分配として非営利性に反すると判断されるおそれがあります。

まとめ

  • 医療法人は都道府県知事の認可(44条)と設立登記(46条)で成立し、新設できるのは持分なしの法人のみ。成立後に診療所の開設許可と保険医療機関の指定の取り直しが続く。
  • 社員総会(社員は各1議決権、定時総会は年1回以上)、理事3人以上・監事1人以上、理事会を置き、理事長は原則として医師・歯科医師の理事から選出する(46条の2〜46条の8)。
  • 役員の任期は2年、管理者は理事に加え、監事は理事・職員を兼ねられない。利益相反取引は理事会の承認が必要。
  • 毎会計年度終了後2か月以内に事業報告書等(関係事業者取引の報告書を含む)を作成し、3か月以内に都道府県知事へ届け出る。経営情報の報告制度と、定款変更の認可、役員変更の届出、帳簿10年保存も忘れない。
  • 剰余金の配当は禁止(54条)。高額な役員報酬や親族会社との不相当な取引は配当類似行為と見られ、立入検査・措置命令・認可取消しに進み得る。

当事務所は、医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士を含む企業法務の弁護士チームとして、医療法人の設立から日常の運営、都道府県への対応まで継続的に支援しています。年間を通じた運営の相談は顧問弁護士サービスをご覧いただき、設立や組織再編の個別のご相談はお問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。チャット・オンラインで全国に対応しています。

参考(一次情報)
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この記事の執筆者
弁護士・医師 澄川 淳矢弁護士法人 越水法律事務所 弁護士・医師(第一東京弁護士会)

京都大学医学部卒業、倉敷中央病院での初期研修を修了した医師であり、弁護士。医療現場での経験を背景に、病院・クリニック・介護事業者・医薬品・医療機器・ヘルステック企業の法務について、医療の実態を踏まえた実践的な助言を行う。

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越水 遥
この記事の監修者
代表弁護士 越水 遥弁護士法人 越水法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会)

大手法律事務所を経て越水法律事務所を設立。企業法務全般、M&A、ファイナンス、スタートアップ支援を手がけ、東証グロース上場企業の社外取締役も務める。医療機関・ヘルスケア企業の顧問として、経営の視点を踏まえた法務支援を行う。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

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