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介護・福祉事業

介護事業所の運営指導・監査への対応 ― 実地指導との違い、標準確認項目と準備、報酬の自主返還、監査への移行と指定取消・連座制

「運営指導の実施通知が届いた。何を準備すればよいのか」「指摘を受けると、どこまで報酬を返すことになるのか」「監査に切り替わると指定取消になるのか」――介護事業所の管理者からこうしたご相談が寄せられます。運営指導(旧実地指導)は本来、事業所を支援する行政指導ですが、準備不足のまま臨むと加算の返還や監査への移行につながります。この記事では、厚生労働省の介護保険施設等指導指針・監査指針と運営指導マニュアル、介護保険法の条文に沿って、運営指導の流れと準備、報酬返還の考え方、監査・指定取消への移行と連座制を整理します。

この記事の結論

運営指導は介護保険法23条・24条に基づく任意の行政指導で、原則1か月以上前に通知され、標準確認項目・確認文書の範囲で確認されます。不正請求や著しい基準違反、高齢者虐待の疑いがあれば直ちに76条に基づく立入検査(監査)に変更され、不正請求には返還額に40%を加えた徴収(22条3項)、指定の効力停止・取消(77条)に進み、取消は役員等に5年の連座を生じさせます(70条2項6号)。

運営指導とは ― 実地指導からの名称変更と3種類の指導

介護保険施設等に対する指導監督は、厚生労働省老健局長通知「介護保険施設等の指導監督について」(令和4年3月31日老発0331第6号、最終改正令和6年3月26日)が示す「介護保険施設等指導指針」と「介護保険施設等監査指針」に基づいて行われます。この令和4年の改正で「実地指導」は「運営指導」に名称が変わり、確認項目・確認文書の標準化とオンライン活用による効率化が打ち出されました。進め方の詳細は「介護保険施設等運営指導マニュアル」が解説しています。

運営指導の法的根拠は、市町村の文書提出要求・質問(介護保険法23条)と、厚生労働大臣・都道府県知事の報告命令・帳簿書類の提示命令・質問(24条)です。いずれも立入検査の権限を含まず、マニュアルも「相手の任意の協力を前提に行われる行政指導」と明記しています。運営指導は次の3種類です。

  • 介護サービスの実施状況指導:個別サービスの質を記録と現場で確認(原則3名以内)。
  • 最低基準等運営体制指導:人員・設備・運営基準に定める運営体制を確認する。
  • 報酬請求指導:加算等の介護報酬請求の適正実施を確認する。
項目運営指導監査
根拠条文介護保険法23条・24条(文書提出・報告・質問)76条等(報告・帳簿書類の提出・出頭・質問・立入検査)
性質任意の協力を前提とする行政指導権限に基づく検査。拒否・虚偽答弁は指定取消事由(77条1項7号・8号)
事前通知原則として実施予定日のおおむね1か月以上前無通告で実施されることがある(虐待の疑いは事前通告なしで速やかに)
結果文書による改善指導、自己点検と過誤調整の指導勧告・命令・公表、返還額+40%の徴収、指定の効力停止・取消

運営指導の流れ ― 通知から結果通知・改善報告まで

運営指導は、原則として指定・許可の有効期間(6年)内に少なくとも1回行われ、居住系サービス・施設系サービスについては利用者の生活の場であることから3年に1回以上が望ましいとされています。流れは次のとおりです。

  1. 実施通知:事業所側の勤務状況を考慮し、おおむね1か月以上前に実施日・内容・準備書類等が通知されます。緊急時は開始時の文書通知で実施されることもあります。
  2. 事前提出・自己点検:指導指針は自己点検の励行を求め、確認文書は電子媒体での事前提出も可能で、提出は1部で足ります。
  3. 当日の確認:対象期間は原則として前年度から直近(おおむね1か月前)までの実績です。運営体制指導と報酬請求指導はオンラインの活用も可能です。
  4. 結果通知:改善を要する事項や、不正には当たらない軽微な請求誤りで過誤調整を要する事項は、後日文書で通知されます。
  5. 改善報告:文書で通知された事項については、文書による報告が求められます。期限は通知書に記載されます。
ポイント

運営指導は「前年度から直近」の記録を「3名以内」の利用者について見る設計です。この範囲の記録に欠落があると、それより前にさかのぼった確認や監査に進む契機になるため、直近1年分の記録の整合性を優先して点検してください。

標準確認項目・確認文書と事前準備

指導指針は、実施状況指導と運営体制指導について、サービス種別ごとに「標準的な確認すべき項目(確認項目)」と「標準的な確認すべき文書(確認文書)」を定め、特段の事情がない限り確認項目以外は確認せず、確認文書以外の文書は原則求めないとしています。マニュアル別添の一覧から自事業所のサービス種別分を取り出し、文書ごとに所在と責任者を書き込むのが準備の第一歩です。

準備で漏れやすい文書

  • 重要事項説明書・契約書と利用者の同意(運営規程・料金・加算の記載の一致)
  • 居宅サービス計画との整合がとれた個別サービス計画、説明・同意・交付の記録、モニタリング
  • 勤務形態一覧表と出勤簿・タイムカード、資格証、常勤換算の根拠
  • 身体的拘束等の記録(態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由)と委員会・指針・研修の記録
  • 虐待防止委員会、業務継続計画、感染症対策、事故・苦情の記録と再発防止策
  • 加算ごとの算定要件を示す文書(会議録、研修記録、体制届の控え)

厚生労働省の「各種加算等自己点検シート」も活用し、通知が来てから作るのではなく年1回の自己点検として回す運用が、指摘の予防に最も効きます。

当日の対応 ― やるべきこと・避けるべきこと

やるべきこと

  • 管理者を窓口に一本化し、回答者と記録係を決めておく。求められた文書はそのまま提示し、所在不明なら「後日提出する」と正確に伝える。
  • 指摘された事項と根拠(基準・通知の条文)をメモし、理解が違う点はその場で確認する。
  • 顧問弁護士に日程を共有し、解釈に争いがある加算や人員配置の論点を整理しておく。

避けるべきこと

  • 記録の事後作成・書き換え:確認文書の不備や虚偽が疑われること自体が監査への変更事由です。
  • その場での安易な返還の約束:返還の範囲や期間は、過誤調整か不正請求かの判断を含めて検討してから回答します。
  • 職員の個別対応:推測の回答は記録との矛盾を生みます。

運営指導は行政指導のため虚偽答弁に罰則はありません(介護保険法24条に基づく報告命令を除く)が、虚偽が疑われると監査に移行し、監査での報告拒否・虚偽報告・検査拒否は指定取消事由になります(77条1項7号・8号)。

報酬の返還 ― 「単なる誤り」と「不正請求」の違い

報酬請求指導で算定要件の不備が見つかった場合、運営指導マニュアルは「単なる誤り」と「偽りその他不正の行為」を明確に区別しています。

区分典型例手続と効果
単なる誤り(不当な請求)制度の理解不足で加算の算定要件の一部を満たさないまま請求した自己点検のうえ過誤調整を行うよう指導(行政指導)。事業者側の申立てによる自主的な返還で、強制はできない
不正請求サービスを行っていないのに請求した、人員不足を満たしていると装って加算を請求した、所要時間を超える単位数で請求した監査で事実関係を確認し、返還額に40%を乗じた額を加えて徴収(22条3項・行政処分)。指定取消事由(77条1項6号)

マニュアルは、過誤調整の指導に従わなかったことのみを理由に後から不正請求と判断して返還を求めることはできないと明記しています。基本報酬の返還が必要になるのはサービスが全く提供されていないなど基本単位数の要件自体を欠く場合で、運営基準違反があるからといって直ちに基本報酬の返還を求めることはできないという整理です。

事業者側は、指摘を受けた加算について①要件の解釈に争いがないか、②不備の期間と対象利用者の範囲、③他の保険者分にも同じ誤りがないかを確認して自己点検の結果を報告し、解釈に争いがあれば告示・留意事項通知・Q&Aを示して文書で見解を伝えます。

監査への変更と行政処分 ― 勧告・命令・指定取消、聴聞・弁明

指導指針は、運営指導の実施中に次の状況を確認した場合、運営指導を中止して直ちに監査を行うとしています。

  1. 人員・設備・運営基準に従っていない状況が著しいと認められる場合またはその疑い
  2. 介護報酬請求について不正を行っていると認められる場合またはその疑い
  3. 不正の手段による指定等を受けていると認められる場合またはその疑い
  4. 高齢者虐待等により利用者の生命・身体の安全に危害を及ぼしていると認められる場合またはその疑い

監査は介護保険法76条等に基づき、報告・帳簿書類の提出、出頭、質問、立入検査を行って事実を確定する手続です。監査で指定基準違反等が認められると、期限を定めた勧告、期限内に従わない場合の公表、正当な理由なく従わない場合の命令と公示(76条の2)、そして指定の全部または一部の効力停止・取消(77条1項)へと進みます。命令や指定取消等の処分に該当すると認められる場合は、行政手続法13条1項に基づき聴聞または弁明の機会が付与されます。

聴聞・弁明は、事業者が事実関係と基準の解釈について反論する正式な機会です。争いのない事実は認めつつ、評価が分かれる部分(人員配置の解釈、加算要件の充足、虐待の認定など)について証拠と根拠規定を示すことで、取消ではなく効力停止や勧告にとどまる余地が生まれます。弁護士が意見書を作成し代理人として出席することをお勧めします。

指定取消の波及 ― 連座制と事業継続への影響

指定の取消し・効力停止は事業者名と所在地等が公示されます(介護保険法78条3号)。影響は当該事業所にとどまりません。取り消された者は5年間新たな指定を受けられず、法人の場合は処分の通知日前60日以内の役員等(名称を問わず同等以上の支配力を有する者や管理者を含む)であった者も5年間指定を受けられません(70条2項6号)。親会社等の密接な関係を有する法人が取消しから5年以内であることも欠格事由です(同項6号の3)。この連座制により、グループ内の他事業所の更新や新規開設が止まり得ます。

ただし、業務管理体制の整備の取組状況その他の責任の程度を考慮して相当と認められる場合は連座が適用されない例外があり(各号ただし書)、介護保険法115条の32の業務管理体制(法令遵守責任者の選任、法令遵守規程、内部監査)を実質的に運用していたことを示せるかが鍵です。

また、取消処分の通知から処分までの間に事業を廃止した場合も、相当の理由がなければ5年間の欠格事由になります(70条2項7号)。指定取消が見込まれる場合は、利用者の他事業所への引継ぎ(74条5項の便宜提供義務)と職員の処遇を含めて早期に全体計画を立てる必要があります。介護事業の経営リスクは2027年施行・改正介護保険法への実務対応でも解説しています。

ポイント

指定取消は一事業所の問題ではなく、役員個人と関係法人を5年間拘束します。監査の初期段階から、事実関係の整理と業務管理体制の運用実績を文書で示す準備を進めることが、法人全体の損失を最小化します。

よくある質問(FAQ)

運営指導と実地指導は何が違うのですか。
令和4年3月31日付の厚生労働省老健局長通知(老発0331第6号)で指導指針が改正され、実地指導は運営指導に名称が変わりました。法的性質は従来と同じく、介護保険法23条・24条に基づく任意の行政指導で、原則1か月以上前に通知されます。
運営指導で加算の不備を指摘されたら、必ず全額返還になりますか。
要件の誤った理解による単なる誤りであれば、自己点検のうえ過誤調整を行うよう指導される扱いで、強制的な徴収ではありません。偽って請求した不正請求と判断された場合は、監査を経て返還額に40%を加えた額が徴収され(介護保険法22条3項)、指定取消事由にもなります(77条1項6号)。
運営指導が監査に切り替わるのはどんな場合ですか。
指導指針は、基準に従っていない状況が著しい場合、介護報酬請求に不正がある場合、不正の手段で指定を受けた場合、高齢者虐待等で利用者の生命・身体に危害を及ぼしている場合、またはそれらの疑いがある場合に、運営指導を中止して直ちに監査を行うとしています。
監査で指定取消と言われたら、もう争えないのですか。
命令や指定取消等の処分の前には、行政手続法13条1項に基づく聴聞または弁明の機会が付与されます。事実関係と基準の解釈について証拠と根拠規定を示して意見を述べることで、処分の内容や範囲が変わる余地があります。聴聞・弁明の段階での対応が最も重要です。
一つの事業所が指定取消になると、他の事業所も影響を受けますか。
取り消された法人の役員等であった者や、密接な関係を有する法人は5年間新たな指定を受けられません(介護保険法70条2項6号・6号の3)。更新も同じ基準で審査されるため、グループ内の他事業所にも影響し得ます。業務管理体制の整備状況等により例外が認められる場合があります。

まとめ

  • 運営指導は介護保険法23条・24条に基づく任意の行政指導で3種類。原則1か月以上前に通知され、前年度から直近の記録を利用者3名以内で確認する。
  • 準備は標準確認項目・確認文書と自己点検シートに沿って、年1回の自己点検として回す。
  • 加算の不備は「単なる誤り」なら過誤調整の指導、「不正請求」なら監査を経て返還額+40%の徴収(22条3項)と指定取消事由(77条1項6号)。
  • 著しい基準違反・不正請求・不正手段による指定・虐待の疑いがあれば直ちに監査(76条)に変更され、勧告・命令(76条の2)から指定取消(77条)へ進む。処分前の聴聞・弁明が最大の反論機会。
  • 指定取消は役員等・関係法人に5年の連座を生じさせる(70条2項6号)。業務管理体制(115条の32)の実質的な運用が例外主張の根拠になる。

当事務所は、医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士を含む企業法務の弁護士チームとして、運営指導前の自己点検、改善報告書・見解書の作成、監査への立会い、聴聞・弁明の代理までを支援しています。顧問弁護士サービスをご覧いただき、実施通知が届いた段階、または監査への切替えを告げられた段階で、お問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。チャット・オンラインで全国に対応しています。関連記事は介護・福祉事業の記事一覧をご覧ください。

参考(一次情報)
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この記事の執筆者
弁護士・医師 澄川 淳矢弁護士法人 越水法律事務所 弁護士・医師(第一東京弁護士会)

京都大学医学部卒業、倉敷中央病院での初期研修を修了した医師であり、弁護士。医療現場での経験を背景に、病院・クリニック・介護事業者・医薬品・医療機器・ヘルステック企業の法務について、医療の実態を踏まえた実践的な助言を行う。

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越水 遥
この記事の監修者
代表弁護士 越水 遥弁護士法人 越水法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会)

大手法律事務所を経て越水法律事務所を設立。企業法務全般、M&A、ファイナンス、スタートアップ支援を手がけ、東証グロース上場企業の社外取締役も務める。医療機関・ヘルスケア企業の顧問として、経営の視点を踏まえた法務支援を行う。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

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