ホーム分野別記事一覧顧問弁護士サービス弁護士紹介YouTubeメルマガお問い合わせ
メルマガ登録(無料) 無料相談・お問い合わせ 電話 03-6824-4639(平日10:30–17:00)
介護・福祉事業

高齢者虐待防止と身体拘束の適正化 ― 通報義務(21条)、身体拘束の3要件と記録、虐待防止委員会・指針・研修の義務化と減算、利用契約書の整備

「職員の対応が虐待に当たるのではないかと相談を受けた」「転倒防止のベッド柵4点は身体拘束か」「家族から『拘束してでも守ってほしい』と言われた」――介護・福祉事業所の管理者から寄せられるご相談です。高齢者虐待防止法は施設従事者等に通報義務を課し、運営基準は身体的拘束等を原則禁止して委員会・指針・研修を義務付け、2024年度改定では怠った場合の減算が設けられました。この記事では、条文と厚生労働省のQ&Aに沿って、通報義務、身体拘束の3要件と記録、体制整備、利用契約書の整備を整理します。

この記事の結論

施設従事者等は、勤務先で高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見したとき速やかに市町村へ通報しなければならず、通報を理由とする不利益取扱いは禁止されています(高齢者虐待防止法21条1項・7項)。身体的拘束等は生命・身体を保護するため緊急やむを得ない場合に限られ、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす記録がなければ減算の対象となり(令和7年1月20日厚生労働省Q&A)、虐待防止の委員会・指針・研修・担当者を欠くと基本報酬の1%減算です(2024年度改定)。

高齢者虐待防止法の基本 ― 施設従事者等による虐待の5類型と事業者の責務

高齢者虐待防止法は65歳以上の者を「高齢者」とし(2条1項)、家族等の「養護者」による虐待と「養介護施設従事者等」による虐待を区別します。養介護施設には老人福祉施設、有料老人ホーム、介護保険施設、地域包括支援センター等、養介護事業には居宅サービス事業、地域密着型サービス事業、居宅介護支援事業等が含まれ(2条5項)、訪問介護やデイサービスの職員も「従事者等」です。

類型(2条5項1号)条文上の定義現場で問題になりやすい例
身体的虐待(イ)外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行叩く、要件を満たさない身体拘束
介護等放棄(ロ)著しい減食、長時間の放置その他職務上の義務を著しく怠ること排泄介助の放置、必要な受診をさせない
心理的虐待(ハ)著しい暴言、著しく拒絶的な対応その他著しい心理的外傷を与える言動子ども扱い、威圧的な言葉、無視
性的虐待(ニ)わいせつな行為をすること、させること不必要な露出
経済的虐待(ホ)財産の不当な処分、不当な財産上の利益の取得金銭の無断使用、不要な物品の購入強要

事業者は、研修や苦情処理体制の整備その他の虐待防止措置を講ずるものとされ(20条)、都道府県知事は毎年度、虐待の状況と措置を公表します(25条)。令和7年12月25日公表の令和6年度調査では、従事者等による虐待の相談・通報3,633件、虐待判断1,220件でいずれも過去最多、種別は身体的虐待51.1%が最多、発生要因は「知識・意識の不足」が75.9%、通報者は当該施設職員(27.4%)が最多でした。内部からの通報が主流であることを事業者は認識する必要があります。

通報義務(21条)― 「虐待を受けたと思われる」段階で速やかに市町村へ

従事者等は、自らが業務に従事する施設・事業(同一の設置者・事業者が運営する他の施設・事業を含む)で従事者等による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報しなければなりません(21条1項)。義務の主体は個々の職員で、「思われる」段階で足り、事実の確定は要件ではありません。それ以外の者も、生命・身体に重大な危険がある場合は通報義務を負い(2項)、それ以外は努力義務です(3項)。

刑法の秘密漏示罪その他の守秘義務の規定は、虚偽・過失によるものを除き通報を妨げるものと解釈してはならず(6項)、従事者等は通報を理由として解雇その他不利益な取扱いを受けません(7項)。市町村の職員は通報者を特定させる事項を漏らしてはならず(23条)、市町村長・都道府県知事は老人福祉法・介護保険法の権限を行使します(24条)。

ポイント

「内部で調査してから通報の要否を決める」運用は職員の通報義務を妨げ、7項にも抵触し得ます。管理者が把握した時点で市町村に一報を入れ、調査は並行して進めるのが法の趣旨に沿った運用です。

虐待防止措置の義務 ― 委員会・指針・研修・担当者と2024年度の減算

運営基準は、虐待の発生・再発を防止するため、①対策を検討する委員会の定期開催と結果の周知、②指針の整備、③定期的な研修、④担当者の設置を義務付けています(平成11年厚生省令第37号37条の2、同第39号35条の2)。

2024年度(令和6年度)介護報酬改定では、これらの措置が講じられていない場合に所定単位数の100分の1を減算する「高齢者虐待防止措置未実施減算」が新設されました。対象は居宅療養管理指導・福祉用具貸与・特定福祉用具販売を除く全サービスです(福祉用具貸与は3年間の経過措置)。厚生労働省の令和7年1月20日付Q&A(介護保険最新情報Vol.1345)は、研修回数を施設系・居住系(特定施設、認知症対応型共同生活介護、介護保険施設等)は年2回以上、訪問介護・通所介護・短期入所生活介護・居宅介護支援等は年1回以上と整理しています。減算は「体制がないこと」に適用され、委員会の議事録、指針、研修記録、担当者の指名記録が確認されます。

身体拘束の3要件と記録 ― 切迫性・非代替性・一時性

運営基準は、「当該利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(身体的拘束等)を行ってはならない」と定め、行う場合は「その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由」の記録を義務付けています(省令39号11条4項・5項、省令37号23条3号・4号、183条4項・5項など)。「緊急やむを得ない場合」の判断基準が3要件で、令和7年1月20日付Q&Aは、3要件すべてを満たすことの記録が確認できなければ減算の適用となると明記しています。

要件内容(厚生労働省Q&A・手引き)記録に残すべき事項
切迫性本人または他の利用者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと具体的な危険と頻度、拘束の悪影響との比較
非代替性身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと検討した代替手段とその結果、組織での検討経過
一時性身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること開始・終了時刻、解除の目安、再評価の予定

厚生労働省老健局の「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月、平成13年の「身体拘束ゼロへの手引き」を見直したもの)は、3要件の確認は本人の尊厳を守るプロセスであり、本人・家族・関係者全員で検討・確認して記録することを求めています。ベッドを柵で囲む、車椅子にベルトで固定する、居室に施錠するなどは身体拘束に該当し得る行為で、家族から求められても判断の主体は事業者であり、3要件を満たさない拘束は同意があっても運営基準違反と身体的虐待の評価を免れません。拘束の弊害と代替手段、残るリスクの説明と家族の意向を記録することが、後の紛争で事業者を守ります。

身体拘束適正化の体制 ― 委員会3か月に1回・指針・研修と対象の拡大

施設系・居住系サービスでは、身体的拘束等の適正化のため、①委員会を3か月に1回以上開催し結果を周知すること、②指針の整備、③定期的な研修が義務です(省令39号11条6項、省令37号183条6項)。2024年度改定で短期入所系・多機能系にもこれらが義務付けられ「身体拘束廃止未実施減算」の対象が拡大され、令和7年3月31日までの努力義務の経過措置を経て同年4月から減算が適用されています。

訪問系・通所系サービス等は原則禁止と記録が運営基準に明記され(省令37号23条・98条など)、減算はありませんがQ&Aは「記録の確認ができない場合は指導の対象になる」としています。Q&Aはさらに、拘束をしていない場合でも全ての措置がなければ減算となること、過去の未実施が判明しても遡及適用はされず発見した月が「事実が生じた月」となることを示しています。

ポイント

「拘束をしていないから委員会は不要」は誤りです。施設系・居住系・短期入所系・多機能系では、拘束ゼロの事業所でも3か月に1回以上の委員会・指針・研修がなければ減算されます。虐待防止委員会と一体的に開催する場合は、議事録で両方の議題を扱ったことが分かるようにしてください。

利用契約書・重要事項説明書の整備 ― 身体拘束・虐待・解除条項

運営基準は、提供開始前に重要事項を記した文書を交付して説明し同意を得ることを義務付けています(省令37号8条1項、省令39号4条1項)。虐待防止・身体拘束の観点から、次の内容を盛り込むことをお勧めします。

  • 身体的拘束等の方針:原則として行わないこと、緊急やむを得ない場合は3要件を確認し、本人・家族に説明して記録することを明記する。包括的に拘束を承諾させる「同意書」は、運営基準の趣旨に反し効力も認められにくいため避ける。
  • 虐待防止の体制:委員会・指針・研修・担当者と、相談・苦情の窓口、市町村の窓口を記載する(20条の苦情処理体制)。
  • リスクの説明:拘束を行わない方針で転倒等のリスクが残ることと対策を説明し、記録を残す。
  • 事業者からの解除条項:利用者・家族の暴力等を解除事由とする場合は、事前の注意・改善の機会と相当の予告期間、他の事業者への引継ぎ協力を記載する。
  • 損害賠償条項:責任の全部免除や故意・重過失の一部免除は消費者契約法8条で無効、解除の違約金が平均的な損害を超える部分は9条1号で無効のため、賠償範囲を一方的に限定する条項は置かない。

利用契約は消費者契約でもあり、消費者の権利を制限し一方的に害する条項は無効となり得ます(消費者契約法10条)。契約書は年1回の見直しをお勧めします。

虐待の疑いが生じたときの対応手順

  1. 利用者の安全確保:当該職員を担当から外し、必要に応じて受診させる。
  2. 市町村への通報:管理者が把握した時点で一報を入れ、職員個人の通報を妨げない。
  3. 事実確認:関係職員からの聴取と記録・映像の保全。聴取は複数人で行い、誘導を避ける。
  4. 行政調査への協力:運営指導マニュアルは、虐待の疑いがある場合は事前通告なく速やかに監査(立入検査)を行うとしており、報告拒否・虚偽報告は指定取消事由です(介護保険法77条1項7号・8号)。
  5. 職員への対応:懲戒は就業規則の根拠と弁明の機会を踏まえ、確認前の解雇や通報者への不利益取扱いは避ける。
  6. 再発防止と報告:委員会で原因分析と改善計画を策定し、市町村の求めに応じて改善報告書を提出する。

虐待の認定は人格尊重義務違反(介護保険法74条6項)として指定の効力停止・取消の事由にもなり(77条1項5号)、初動と改善計画が処分の内容を左右します。制度変化は2027年施行・改正介護保険法への実務対応で解説しています。

よくある質問(FAQ)

職員による虐待の疑いがあるとき、事業所内で事実を確認してから通報してもよいですか。
高齢者虐待防止法21条1項は「虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合」に速やかに通報することを義務付けており、事実の確定は要件ではありません。内部調査を理由に通報を遅らせる運用は職員の通報義務を妨げ、不利益取扱い禁止(同条7項)にも抵触し得ます。
虐待を通報した職員が守秘義務違反に問われることはありますか。
ありません。守秘義務の規定は、虚偽・過失によるものを除き通報を妨げるものと解釈してはならず(高齢者虐待防止法21条6項)、通報を理由とする不利益な取扱いも禁止されています(同条7項)。
身体拘束の3要件とは何ですか。家族の同意があれば拘束できますか。
切迫性(生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い)、非代替性(代替する介護方法がない)、一時性(一時的である)をすべて満たし、態様・時間・心身の状況・理由を記録した場合に限り認められます。家族の同意があっても3要件を満たさない拘束は運営基準違反であり、身体的虐待と評価され得ます。
身体拘束を一切していない事業所でも、委員会や研修は必要ですか。
施設系・居住系・短期入所系・多機能系サービスでは必要です。厚生労働省の令和7年1月20日付Q&Aは、身体的拘束等をしていない場合でも、委員会・指針・研修の全ての措置がなされていなければ身体拘束廃止未実施減算の適用となるとしています。
利用契約書に「身体拘束に同意する」という包括的な条項を入れてもよいですか。
お勧めしません。身体的拘束等は個別の場面で3要件を確認して行うものであり、包括的な事前同意は運営基準の趣旨に反し、消費者契約法10条により無効と評価されるおそれもあります。原則禁止の方針と、緊急やむを得ない場合の手続・記録・説明の方法を記載してください。

まとめ

  • 高齢者虐待防止法は施設従事者等による虐待を5類型で定義し(2条5項)、事業者に研修・苦情処理体制等を求める(20条)。
  • 従事者等は「虐待を受けたと思われる」段階で速やかに市町村へ通報する義務を負い(21条1項)、守秘義務違反にならず、不利益取扱いは禁止(6項・7項)。事業者は通報を妨げない。
  • 虐待防止の委員会・指針・研修・担当者は運営基準上の義務で、欠けると基本報酬の1%減算(2024年度改定)。研修は施設・居住系で年2回以上、訪問・通所系等で年1回以上。
  • 身体拘束は3要件すべてを満たす記録が必須。施設・居住・短期入所・多機能系は委員会3か月に1回以上・指針・研修がなければ拘束ゼロでも減算。
  • 契約書には拘束の原則禁止と手続、虐待防止体制、リスク説明、適正な解除条項を盛り込み、包括的な拘束同意や全部免責条項は置かない(消費者契約法8条・9条・10条)。

当事務所は、医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士を含む企業法務の弁護士チームとして、虐待防止・身体拘束適正化の指針と委員会運営の整備、利用契約書の見直し、虐待の疑いが生じた際の通報・事実確認・職員対応・行政対応の助言を支援しています。顧問弁護士サービスをご覧いただき、お問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。チャット・オンラインで全国に対応しています。関連記事は介護・福祉事業の記事一覧をご覧ください。

参考(一次情報)
関連記事・関連ページ
この記事の執筆者
弁護士・医師 澄川 淳矢弁護士法人 越水法律事務所 弁護士・医師(第一東京弁護士会)

京都大学医学部卒業、倉敷中央病院での初期研修を修了した医師であり、弁護士。医療現場での経験を背景に、病院・クリニック・介護事業者・医薬品・医療機器・ヘルステック企業の法務について、医療の実態を踏まえた実践的な助言を行う。

弁護士紹介を見る →
越水 遥
この記事の監修者
代表弁護士 越水 遥弁護士法人 越水法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会)

大手法律事務所を経て越水法律事務所を設立。企業法務全般、M&A、ファイナンス、スタートアップ支援を手がけ、東証グロース上場企業の社外取締役も務める。医療機関・ヘルスケア企業の顧問として、経営の視点を踏まえた法務支援を行う。

弁護士紹介を見る →

※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

← 記事一覧へ戻る毎日の記事をメールで受け取る

医療・ヘルスケアの法務、
まずは無料相談からお聞かせください。

医療法・薬機法・介護保険法・医療広告・労務。病院・クリニック、介護事業者、医薬品・医療機器・化粧品・健康食品メーカー、ヘルステック企業の課題を伺い、優先して整えるべき事項と顧問契約の内容をご提案します。東京のオフィスでの面談のほか、オンラインで全国に対応しています。

お電話(平日 10:30–17:00)
03-6824-4639

✉ メルマガ登録 無料相談