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病院・クリニック経営

クリニック開業の法的手続 ― 診療所の開設届・開設許可、管理者の要件、保険医療機関の指定申請、施設基準の届出と開業後の個別指導

「勤務医から独立して診療所を開業したい」「医療法人で新しいクリニックを開設したい」――開業準備では物件・機器・人材に目が向きがちですが、開設届・指定申請・施設基準の届出の順序と期限を誤ると、開業日に保険診療ができない事態になりかねません。この記事では、クリニック開業の手続を、診療所の開設届・病院の開設許可(医療法7条・8条)、管理者の要件、保険医療機関の指定申請と施設基準の届出、開業後の個別指導まで、条文と公的資料に沿って整理します。

この記事の結論

クリニック開業の手続は、①保健所等への開設届(医師個人が診療所を開設する場合は開設後10日以内。医療法8条)又は開設許可(法人開設・病院・病床設置。同法7条)、②地方厚生局への保険医療機関の指定申請(健康保険法63条・65条。指定日は原則として申請した翌月1日)、③施設基準の届出、の3段階で進めます。2026年4月からは保険医療機関の管理者に「臨床研修修了後3年以上の保険診療の経験」などの要件が加わり(健康保険法70条の2)、開業後はおおむね1年以内に集団指導、その後に新規個別指導の対象となります。

クリニック開業手続の全体像 ― 3つの段階と時間軸

クリニック開業の法的手続は、「医療法上の開設手続」「健康保険法上の保険医療機関の指定」「診療報酬上の施設基準の届出」の3段階に分かれます。提出先はそれぞれ保健所等、地方厚生局、地方厚生局で、前の段階が終わらないと次に進めません。保険医療機関の指定日が原則として申請の翌月1日とされていることから、開設届から保険診療の開始までに1か月以上を見込む必要があります。

段階手続根拠提出先期限・時期
①医療法診療所の開設届(臨床研修等を修了した医師・歯科医師が開設する場合)医療法8条1項所在地の都道府県知事(保健所設置市・特別区ではその市長・区長)開設後10日以内
①医療法診療所の開設許可(医療法人など医師でない者が開設する場合)、病院の開設許可、診療所への病床設置の許可医療法7条1項・3項同上開設前
①医療法診療用エックス線装置の備付けの届出医療法15条3項同上備え付けたとき
②健康保険法保険医療機関の指定申請・保険医の登録申請健康保険法63条3項1号・64条・65条1項地方厚生(支)局・都道府県事務所各厚生局の締切日まで(指定日は原則翌月1日)
③診療報酬基本診療料・特掲診療料の施設基準の届出診療報酬点数表・施設基準告示地方厚生(支)局・都道府県事務所算定を始める前
ポイント

開業日を先に決めると、保険医療機関の指定日が間に合わないことがあります。「指定日は申請の翌月1日が原則」という厚生局の運用を起点に、開設届・指定申請・施設基準の届出を逆算してください。

診療所の開設届と病院の開設許可(医療法7条・8条)

臨床研修等を修了した医師・歯科医師が診療所を開設したときは、開設後10日以内に、所在地の都道府県知事(保健所を設置する市・特別区ではその市長・区長)に届け出なければなりません(医療法8条1項)。一方、医療法人など「医師でない者」が診療所を開設する場合と病院を開設する場合は、開設前に許可が必要です(同法7条1項)。診療所に病床を設けるときも許可を受けます(同条3項)。

営利を目的とする開設には許可を与えないことができます(同条7項)。厚生労働省の通知「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(平成5年2月3日総第5号・指第9号)は、開設者が実質的に経営の責任主体であること、営利法人等の役職員との兼務や第三者からの資金提供が医療機関の開設・経営に影響を与えないことを確認項目としています。開業コンサルタントや物件オーナーが運営に深く関与するスキームは、この観点から保健所に確認されることがあります。

  • 名称:診療所に「病院」「病院分院」「産院」など病院と紛らわしい名称は付けられません(医療法3条2項)。
  • エックス線装置:診療用エックス線装置を備えたときは都道府県知事等への届出が必要です(同法15条3項)。
  • 廃止:開設後に廃止したときは10日以内に届け出ます(同法9条1項)。承継開業では前任者の廃止届と自身の開設届を同じ日付でそろえる調整が必要です。

管理者の要件と兼任の制限 ― 2026年4月からの保険医療機関の管理者要件

医療法上の管理者(10条・12条・15条)

病院・診療所の開設者は、医業を行う場合は臨床研修等を修了した医師に、その施設を管理させなければなりません(医療法10条1項)。開設者自身が管理者となれる医師であれば原則として自ら管理し、他の者に管理させるには都道府県知事の許可が必要です(同法12条1項)。管理者は、知事の許可を受けた場合を除き、他の病院・診療所を管理しない者でなければならず(同条2項)、いわゆる院長の兼任は医師不足地域や事業所内診療所などの例外に限られます。管理者は従業者を監督し、管理運営に必要な注意をする義務を負います(同法15条1項)。

保険医療機関の管理者要件(健康保険法70条の2)

医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号)により、2026年(令和8年)4月1日から、保険医療機関の管理者は、保険医であり、かつ医師の場合は臨床研修修了後に保険医療機関(病院に限る)で保険医として3年以上診療に従事した経験その他厚生労働省令で定める要件を備える者でなければならないとされました(健康保険法70条の2第1項)。厚生労働省の案内では、2026年4月1日時点ですでに臨床研修を終えている医師は、研修期間を含め病院又は診療所で3年以上保険診療等に従事した経験があれば足りるとされ、専門医資格等による別の要件や勤務日数・時間の要件も示されています。同日時点の管理者は同一の保険医療機関である限り2029年(令和11年)3月31日まで継続できますが、新規開業や他院の管理者就任には要件の充足が必要で、届出時に確認書類を添付します。

管理者は保険医療機関の従業者を監督し、管理運営に必要な注意をしなければならず(同条2項)、違反は指定取消し(同法80条2号)や管理者の保険医登録の取消し(同法81条2号)の事由になり得ます。

ポイント

臨床研修修了からの年数が短い医師や診療所勤務が中心だった医師の開業では、管理者要件を満たすかを最初に確認してください。物件や融資を決めた後に保険医療機関の指定を受けられない、という事態を避けるためです。

保険医療機関の指定申請と保険医の登録(健康保険法63条〜68条)

公的医療保険の療養の給付は厚生労働大臣の指定を受けた保険医療機関で行われ(健康保険法63条3項1号)、診療に従事する医師は登録を受けた保険医でなければなりません(同法64条)。指定は開設者の申請により行われます(同法65条1項)。地方厚生局の案内では、保健所等への開設届等を済ませたうえで申請書を厚生局(都道府県事務所)に提出し、地方社会保険医療協議会の審議・答申を経て指定され、指定日は原則として申請した翌月1日です。締切日は厚生局・事務所ごとに定められ、毎月10日や15日とされている例があります。

厚生労働大臣は、指定を取り消されてから5年を経過しない医療機関、診療内容の適切さを欠くおそれがあるとして重ねて指導を受けた医療機関、開設者・管理者が罰金刑や拘禁刑の執行を終えていない場合、社会保険料を滞納処分後3か月以上滞納している場合などには、指定をしないことができます(同法65条3項)。

指定は6年で効力を失い(同法68条1項)、個人開設の診療所など省令で定めるものは、失効日前6か月から3か月までの間に別段の申出がなければ更新申請があったものとみなされます(同条2項)。ただし、個人から法人への変更や移転など開設者・所在地が変わる場合は新たな指定申請が必要になります。

施設基準の届出と療養担当規則 ― 保険診療を始める前の準備

初診料・再診料の加算や在宅医療、検査・処置の一部の点数は、施設基準を満たし地方厚生局に届出をしていることが算定の条件です。届出様式は「基本診療料」「特掲診療料」に分かれ、各厚生局のサイトに令和8年度診療報酬改定対応版が掲載されています。厚生局の案内では、作成前に告示と通知で人員・面積・実績などの要件を確認すること、郵送又は電子申請で提出すること、受理通知書は送付されず受理状況をサイトで確認する運用であることが示されています。勤務体制表や研修修了証などの裏付け資料を届出前にそろえておくことが、後の個別指導への備えにもなります。

保険医療機関は、省令(保険医療機関及び保険医療養担当規則)に従って療養の給付を担当する義務を負います(健康保険法70条1項)。開業時に整える主な体制は次のとおりです。

  • 受給資格の確認:電子資格確認(マイナ保険証)又は資格確認書などにより確認し(療養担当規則3条1項)、電子資格確認に対応できる体制を整備します(同条4項)。
  • 診療録の記載・区分・保存:保険医は診療後遅滞なく診療録に必要事項を記載し(同規則22条)、保険診療に関する事項は他の診療録と区別して整備します(同規則8条)。帳簿・書類は完結の日から3年間、診療録は5年間保存します(同規則9条、医師法24条2項)。
  • 一部負担金の受領:一部負担金は法定の割合で受領するものとされ(同規則5条)、減免や不徴収は原則として認められません。

開業後の指導・監査 ― 集団指導・新規個別指導から監査まで

保険医療機関と保険医は、厚生労働大臣の指導を受けなければなりません(健康保険法73条1項)。運用は厚生労働省保険局長通知「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成7年12月22日保発第117号。別添1「指導大綱」は令和8年3月30日保発第27号で最終改正、別添2「監査要綱」)に定められています。

区分内容開業したクリニックとの関係
集団指導講習会形式。新規指定の医療機関は原則として指定後おおむね1年以内に対象ほぼ全ての新規開業クリニックが受ける
新規個別指導新規指定の医療機関を対象に、診療録等を持参して面接懇談方式で行う個別指導。地方厚生局の資料では指定からおおむね6か月経過後に実施されると説明されている開業初年度の最大の関門。診療録の記載と算定要件の確認が中心
個別指導情報提供があった場合や再指導・経過観察で改善がない場合などに、原則として連続2か月分の診療報酬明細書に基づいて実施結果は「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」のいずれか
監査不正又は著しい不当が疑われるとき、度重なる個別指導でも改善がないとき、正当な理由なく個別指導を拒否したときに実施行政上の措置は取消処分・戒告・注意。不正・不当に係る返還期間は原則5年

監査の結果、故意の不正請求や重大な過失による不正・不当をしばしば行った場合には、保険医療機関の指定取消し(同法80条)や保険医の登録取消し(同法81条)に至り、取消しから5年間は再指定を拒否され得ます(同法65条3項1号)。新規個別指導で指摘されやすいのは、診療録への診療内容・指導内容の記載不足、施設基準の要件を満たさない状態での算定、算定要件に合致しない医学管理料の算定などです。開業初年度は「請求した点数の根拠が診療録から読み取れるか」を基準に記載ルールを整えてください。

行政手続のほかに、物件の賃貸借契約(診療所用途の可否、指定を受けられなかった場合の解除条項)、雇用契約と就業規則、医療法6条の5に沿ったホームページ(関連記事:医療広告の注意点)も開業前に整えてください。承継開業は「クリニックの開業・承継で確認すべき法的チェックポイント」もご覧ください。

よくある質問(FAQ)

医師個人が診療所を開業するとき、開設届はいつまでに出せばよいですか?
臨床研修等を修了した医師が診療所を開設したときは、開設後10日以内に所在地の都道府県知事(保健所設置市・特別区ではその市長・区長)に届け出なければなりません(医療法8条1項)。保険医療機関の指定申請の前提になるため、開設日と同時かその直後に届け出るのが通例です。
医療法人がクリニックを開設する場合も届出だけで足りますか?
足りません。臨床研修等を修了した医師・歯科医師でない者(医療法人を含む)が診療所を開設するときは、開設前に都道府県知事等の許可を受けなければなりません(医療法7条1項)。審査では構造設備や人員のほか、非営利性も確認されます。
保険医療機関の指定日はいつになりますか?
地方厚生局の案内では、指定日は原則として申請した翌月1日(地方社会保険医療協議会の答申を受けた翌月1日)です。締切日は厚生局・事務所ごとに定められているため、保険診療を始めたい月の前月の締切日までに、開設届等を済ませたうえで申請する必要があります。
2026年4月から保険医療機関の管理者に必要になった要件とは何ですか?
健康保険法70条の2第1項により、管理者は保険医であり、医師の場合は臨床研修修了後に病院の保険医療機関で保険医として3年以上診療に従事した経験その他厚生労働省令で定める要件を備える者でなければならないとされました。2026年4月1日時点で臨床研修を終えている医師は、研修期間を含め病院又は診療所で3年以上の保険診療等の経験があれば足りるとされています。
施設基準の届出はいつ行えばよいですか?
施設基準を要する点数は、届出が受理されていなければ算定できません。保険医療機関の指定を受けた後、速やかに地方厚生局へ届け出るのが基本です。届出前に告示・通知で要件を確認し、裏付け資料を整えておいてください。受理通知書は送付されず、受理状況は厚生局のサイトで公表されます。
開業後、どのような指導を受けることになりますか?
指導大綱に基づき、新規指定の保険医療機関は原則として指定後おおむね1年以内に集団指導の対象となり、あわせて新規個別指導が行われます。個別指導の結果は「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」のいずれかで、不正や著しい不当が疑われる場合は監査に移行し、取消処分・戒告・注意の措置や診療報酬の返還(原則5年)が行われることがあります。
開業コンサルタントや物件オーナーが運営に関わる開業スキームに問題はありますか?
厚生労働省の通知「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」では、開設者が実質的な経営の責任主体であること、営利法人等の役職員との兼務や第三者からの資金提供が医療機関の開設・経営に影響を与えないことが確認事項とされています。利益配分に近い報酬設計や人事権への関与がある契約は締結前に見直してください。

まとめ

  • 開業手続は、医療法上の開設届・許可(保健所等)、健康保険法上の保険医療機関の指定(地方厚生局)、施設基準の届出(地方厚生局)の3段階で、前の手続が次の前提になる。
  • 医師個人の診療所開設は開設後10日以内の届出(医療法8条1項)、医療法人の開設・病院・病床設置は事前の許可(同法7条)。管理者は臨床研修等修了医師で、原則として他の施設との兼任はできない(同法10条・12条)。
  • 2026年4月1日から、保険医療機関の管理者には保険医であることと、臨床研修修了後3年以上の保険診療の経験等の要件が課された(健康保険法70条の2)。既存の管理者には2029年3月31日までの経過措置がある。
  • 保険医療機関の指定日は原則として申請の翌月1日。指定は6年で更新。取消しから5年間は再指定を拒否され得る。
  • 開業後は集団指導・新規個別指導の対象となる。診療録の記載と施設基準の裏付け資料を開業時から整えることが最善の備えになる。

当事務所は、医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士を含む企業法務の弁護士チームとして、開業前の契約の確認、開設・指定手続のスケジュール設計、開業後の指導・監査への対応までを支援しています。開業準備の段階からの継続的なご相談には顧問弁護士サービスをご覧いただき、個別のご相談はお問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。チャット・オンラインで全国に対応しています。

参考(一次情報)
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この記事の執筆者
弁護士・医師 澄川 淳矢弁護士法人 越水法律事務所 弁護士・医師(第一東京弁護士会)

京都大学医学部卒業、倉敷中央病院での初期研修を修了した医師であり、弁護士。医療現場での経験を背景に、病院・クリニック・介護事業者・医薬品・医療機器・ヘルステック企業の法務について、医療の実態を踏まえた実践的な助言を行う。

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越水 遥
この記事の監修者
代表弁護士 越水 遥弁護士法人 越水法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会)

大手法律事務所を経て越水法律事務所を設立。企業法務全般、M&A、ファイナンス、スタートアップ支援を手がけ、東証グロース上場企業の社外取締役も務める。医療機関・ヘルスケア企業の顧問として、経営の視点を踏まえた法務支援を行う。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

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