「オンライン診療のプラットフォームを提供したい」「医師が答える健康相談チャットを事業化したい」「自社サービスは診療なのか相談なのか」――ヘルステック企業からこうしたご相談が増えています。オンライン診療は医師法20条(無診察治療等の禁止)との関係で長く指針による運用が続いてきましたが、2026年4月1日施行の改正医療法で定義と基準が法令に位置づけられ、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」も同月に改訂されました。この記事では、オンライン診療・オンライン受診勧奨・遠隔健康医療相談の線引き、指針の「最低限遵守する事項」、プラットフォーム事業者の立場と責任を整理します。
オンライン診療は、厚生労働省指針の「最低限遵守する事項」を守って行う限り医師法20条に抵触しないと整理されており、2026年4月1日施行の改正医療法で定義(2条の2)と「オンライン診療基準」(14条の3、医療法施行規則9条の6の3以下)が法令化されました。遠隔健康医療相談は、診断など個別の状態に応じた医学的判断を伴わない一般的な情報提供・受診勧奨に限られ、具体的な疾患名を挙げて罹患している旨や治療方針を伝えればオンライン診療に分類されます。
法的位置づけ ― 医師法20条と2026年4月施行の改正医療法
医師法20条は「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し…てはならない」と定めています。情報通信機器を用いた診療との関係は1997年(平成9年)の通知で解釈が示され、2018年(平成30年)3月に厚生労働省が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を策定しました。指針は、「最低限遵守する事項」を守ってオンライン診療を行う場合には医師法20条に抵触しない、と明記しています。
2025年(令和7年)12月12日公布の医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号)のオンライン診療に関する部分が2026年(令和8年)4月1日に施行され、医療法2条の2第1項に「オンライン診療」が定義されました。医師と患者の電子計算機を電気通信回線で接続し、「映像及び音声の送受信により」双方が相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法による診療をいい、文字や写真だけのやりとりは定義に入りません。改正法は、厚生労働大臣が省令で「オンライン診療基準」を定め、オンライン診療はこれに従って行わなければならないとしました(14条の3)。施行通知(令和8年3月27日付け医政発0327第5号)によれば、基準は指針の「最低限遵守する事項」を基本として医療法施行規則9条の6の3以下に規定され、違反には都道府県知事等の是正命令等が可能になりました。あわせて「オンライン診療受診施設」が新設されています(2条の2第2項)。
2026年4月以降、オンライン診療のルールは「指針を守っていれば医師法20条に反しない」という解釈運用から、「医療法上の基準(省令)に従う法的義務」に格上げされました。指針の最低限遵守事項は、省令上の義務として点検する必要があります。
オンライン診療・オンライン受診勧奨・遠隔健康医療相談の線引き
指針は、情報通信機器を活用した健康増進・医療に関する行為を「遠隔医療」と総称し、医師と患者の間で行うものを次のように区分しています。事業設計の最初に、自社サービスがどの区分に当たるかを確定させることが重要です。
| 区分 | 内容(指針の定義) | 指針・基準の適用 | できないこと |
|---|---|---|---|
| オンライン診療 | 医師-患者間で診察・診断を行い、診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムに行う行為 | 全面適用 | 文字・写真・録画動画のみで完結すること、同時に複数患者を診療すること |
| オンライン受診勧奨 | 医師-患者間で診察を行い、疑われる疾患等を判断して受診すべき診療科を選択するなど、必要最低限の医学的判断を伴う受診勧奨 | 一部適用(診療計画・処方等は適用外。施行規則9条の6の19) | 具体的な疾患名を挙げた罹患の伝達、治療方針の伝達、一般用医薬品の使用指示、処方(オンライン診療に分類) |
| 遠隔健康医療相談(医師) | 医師-相談者間で、個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言を行う行為。診断など具体的判断は伴わない | 適用なし(マニュアル整備とモニタリングが望ましい) | 診断、治療方針の伝達、処方 |
| 遠隔健康医療相談(医師以外) | 一般的な医学的情報の提供や一般的な受診勧奨にとどまり、個別の状態を踏まえた罹患可能性の提示・診断等を伴わない行為 | 適用なし(同上) | 個別の状態を踏まえた罹患可能性の提示、診断に当たる判断 |
指針は、疾患の名称・原因・病状・予測・治療方針を主体的に判断して伝達する行為を「診断」として医行為に当たるとしています。医師以外の者がこれを業として行えば医師法17条(医業の禁止)の問題になり、医師が行う場合も指針・基準に従わなければ医師法20条や医療法上の問題になります。
「最低限遵守する事項」 ― 初診・診療計画・本人確認・処方
患者合意と初診
オンライン診療は医師と患者の合意がある場合に行い、実施の都度、医師が可否を判断して、適切でなければ中止して対面診療につなげます。初診からのオンライン診療は、原則として日頃から対面診療を重ねている「かかりつけの医師」が行います。例外として、既往歴・服薬歴等を診療情報提供書、お薬手帳、PHR等から把握でき医師が可能と判断した場合は実施でき、それ以外は映像を用いたリアルタイムのやりとりで症状と医学的情報を確認する「診療前相談」を行い、双方が合意した場合に実施できます。診療前相談は診断・処方を含まず、オンライン診療が行えない可能性や費用をあらかじめ周知することが求められます。
診療計画と本人確認
医師は、対面診療で医学的評価を行ったうえで、診療内容、対面診療・検査との組み合わせ、使用する機器、対面に切り替える条件、急変時の対応方針、担当医師の氏名、セキュリティの責任分界点などを含む「診療計画」を定め、2年間保存します(施行規則9条の6の4)。本人確認は身分確認書類で相互に行い、初診の患者は原則として顔写真付きの身分証明書で確認し、医師もHPKIカード等で氏名を示して資格を患者が確認できる環境を整えます。
薬剤処方の制限と診察方法
| 場面 | 指針の取扱い |
|---|---|
| 現にオンライン診療を行っている疾患の延長とされる症状 | 医師の判断で処方可能 |
| 初診からのオンライン診療・新たな疾患への処方 | 日本医学会連合「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」等を参考に行う |
| 初診の場合に行わない処方 | 麻薬及び向精神薬/基礎疾患等の情報が把握できていない患者への特に安全管理が必要な薬品(薬剤管理指導料「1」対象薬剤)/同患者への8日分以上の処方 |
診察は、リアルタイムの視覚・聴覚情報を含む手段で行い、文字・写真・録画動画のみで完結してはならず、同時に複数の患者を診療してはなりません。医師以外の医療従事者が同席する場合は都度患者の同意を得ます。
提供体制 ― 医師の所在、患者の所在、オンライン診療受診施設、研修
医師・患者の所在:医師は医療機関に所属して問い合わせ先を明らかにし、急変時に対面診療を行える体制を整え、第三者に情報が伝わらない隔離された空間で行います。患者が受ける場所も清潔・安全でプライバシーが保たれる空間であることが必要で(施行規則9条の6の16)、特定多数人に対して受診施設以外の場所で提供する場合は診療所の届出が必要になります。
オンライン診療受診施設:設置者が業として、オンライン診療を行う医師の勤務する病院・診療所等に対し、患者が受診する場所として提供する施設です。個人・法人を問わず設置できますが、設置後10日以内に都道府県知事等へ届け出(医療法8条2項)、清潔・安全、プライバシー、情報セキュリティの措置を講じ(施行規則9条の6の17)、基準適合等を公表しなければなりません(14条の5)。へき地の郵便局や公民館での活用が想定され、紛らわしい名称の使用は禁止されています(3条4項)。
研修と管理者の措置:2020年4月以降、オンライン診療を実施する医師は厚生労働省が指定する研修を受講しなければなりません。改正法では、医療機関の管理者が研修受講など知識・技能を習得させる指導や受診施設の基準適合の確認を行うこととされました(医療法14条の4、施行規則9条の6の20)。
プラットフォーム・システム事業者の立場と責任
オンライン診療の責任主体は原則として診療を行う医師であり、改正医療法も医療機関の管理者に措置義務を課す構造です。事業者が留意すべきは、自らが「医療を提供する者」になっていないかという点です。
- 医業の主体になる設計を避ける:事業者が医師を抱えて利用者に「診療サービス」を直接販売する形は、医師法17条と医療法の開設規制(7条。営利目的の開設には許可を与えないことができる同条7項)の問題を生じます。事業者の役割は医療機関へのシステム・場・事務支援の提供に整理し、診療契約は医療機関と患者の間で成立させるのが基本です。
- 受診施設の設置者となる場合:届出、基準遵守、公表が必要で、医療を提供するものではない旨を明示したうえで広告できる事項が限られます(医療法6条の7の2)。受診施設での医療関連業務への労働者派遣は禁止されます。
- システム事業者の責任分界点:指針は事業者に、セキュリティリスクとシステム障害時の影響の説明、責任分界点を説明して合意した範囲で責任を負うこと、脆弱性発生時の速やかな情報提供、アクセス権限管理、アクセスログの保全、TLS1.3以上による暗号化、医師の本人確認と所属医療機関の確認が常に可能な機能、法的保存義務のある医療情報のサーバーを国内法の執行が及ぶ場所に置くことなどを求めています。
- 個人情報の取扱い:病歴等は要配慮個人情報(個人情報保護法2条3項)です。事業者は医療機関から個人データの取扱いの委託を受ける立場が多く、医療機関には委託先の監督義務(25条)があります。委託契約で利用目的の範囲、再委託、安全管理措置、事故時の報告、終了時の返還・削除を定め、利用者データを自社サービス改善やAI学習に使うなら別途の同意や匿名加工などの根拠を用意します。
事業者が負う責任は「契約で合意した責任分界点の範囲」です。医療機関向け利用規約・契約書で、セキュリティ対策の分担、障害時の対応、データの帰属と利用範囲、医師の本人確認機能の提供を明文化しておくことが、トラブル時の防御線になります。
遠隔健康医療相談サービスを適法に設計する
遠隔健康医療相談は指針・基準の適用対象外で医師以外でも実施できますが、「一般的な医学的情報の提供」「一般的な受診勧奨」の範囲を超えた瞬間に医師法の問題に直結します。指針は、診断等の個別的な医学的判断を含む行為が業として行われないようマニュアルを整備し、遵守状況をモニタリングすることが望ましいとしています。
指針Q&A(2026年4月改訂)は、医師以外が行える内容として、医師の監修の下で策定されたマニュアルに従い、年齢・性別・身長体重といった属性や症状を踏まえて、一般的に可能性があると考えられる疾病の情報提供や、検査項目の一般的な基準値の情報提供を挙げています。「一般に、発熱と神経症状を伴う腰痛は感染を伴う可能性もあります」と伝えることは可能ですが、「あなたは〇〇病です」「この薬を飲んでください」と個別の判断を伝えることはできません。
- 応答マニュアルは医師が監修し、重篤な疾病を疑うべき属性・症状を確認して対面受診を促す流れを組み込む
- 回答に「診断」「処方」「具体的な市販薬の使用指示」が含まれないよう定型文と禁止語を定め、ログをモニタリングする
- 医師が個別の診断や治療方針を伝える設計なら、オンライン診療として医療機関を主体にした体制に組み替える
- 症状から疾病候補や罹患リスクを提示するAIチャット機能は、医師法とは別に薬機法上のプログラム医療機器該当性の確認が必要になる
違反した場合のリスク ― 是正命令・広告規制・刑事罰
改正医療法により、都道府県知事等は自由診療の場合も含め、病院・診療所とオンライン診療受診施設に対して報告徴収・立入検査を行い、是正命令等を行うことができます(医療法24条の2、25条)。広告面では、オンライン診療を行う旨や内容が広告可能事項に追加され(6条の5第3項15号・16号)、受診施設の広告は医療を提供するものではない旨を明示したうえで限定された事項のみ可能です。広告の中止・是正命令への違反は6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(87条1号)、紛らわしい名称の使用や受診施設の届出義務違反は20万円以下の罰金(89条1号)の対象です。医師でない者が診断・処方に当たる行為を業として行えば医師法17条違反となり、3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金(医師法31条1項)の対象になります。
よくある質問(FAQ)
チャット(文字)だけで医師が診察して処方するサービスは認められますか?
初診からオンライン診療を受け付けるサービスを作れますか?
看護師が利用者の症状を聞いて受診する科を案内するサービスは、遠隔健康医療相談ですか?
オンライン診療受診施設を民間企業が設置できますか?
プラットフォーム事業者は、医師の診療ミスについて責任を負いますか?
まとめ
- オンライン診療は、指針の「最低限遵守する事項」を守る限り医師法20条に反しないと整理され、2026年4月1日施行の改正医療法で定義(2条の2)とオンライン診療基準(14条の3・施行規則9条の6の3以下)が法令化されました。違反には是正命令等が可能です。
- オンライン診療・オンライン受診勧奨・遠隔健康医療相談は、個別の状態に応じた医学的判断(診断)を伴うかで区分され、具体的な疾患名を挙げた罹患の伝達、治療方針の伝達、処方はオンライン診療に分類されます。
- 初診はかかりつけの医師が原則で、例外は医学的情報の把握または診療前相談。診療計画(2年保存)、本人確認、初診での処方制限、文字のみ完結の禁止、研修受講が中核的な遵守事項です。
- 事業者は医業の主体にならない設計を基本とし、責任分界点の合意、セキュリティ対策、個人データの委託先としての義務を契約で明確にします。受診施設の設置には届出・基準遵守・公表が必要です。
- 遠隔健康医療相談は医師監修のマニュアルとモニタリングで「一般的な情報提供」の範囲を維持し、疾病候補を提示するAI機能はプログラム医療機器該当性も確認します。
法改正直後の今は、既存のサービスを新しい基準に照らして点検し、医療機関向けの契約書と利用規約を見直す時期です。当事務所には医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士が在籍し、企業法務の弁護士チームが、サービス区分の整理、医療機関との契約・利用規約、相談マニュアルの設計、個人情報の取扱いまで一貫してサポートしています。事業モデルの段階からの継続的な相談は顧問弁護士サービスで、まず現状の適法性を確認したい場合はお問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。チャット・オンラインで全国から対応しています。
- 医師法(e-Gov法令検索)― 17条・20条・31条
- 医療法(e-Gov法令検索)― 2条の2・3条4項・6条の5・6条の7の2・7条・8条・14条の3〜14条の5・24条の2・25条・87条・89条
- 医療法施行規則(e-Gov法令検索)― 9条の6の3〜9条の6の21(オンライン診療基準等)
- オンライン診療について(厚生労働省)
- オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月・令和8年4月改訂、厚生労働省)
- 医療法等の一部を改正する法律の一部の施行等について(オンライン診療関係)(令和8年3月27日付け医政発0327第5号、厚生労働省)
- 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A(令和8年4月改訂、厚生労働省)
- 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会・厚生労働省)
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
