Googleマップに「あの医師は誤診ばかり」「受付の〇〇は最低」と書かれた。SNSで院内の写真つきの投稿が拡散している。医療機関の口コミ・SNS上の誹謗中傷は、患者の受診行動に直結するうえ、守秘義務があるため反論しにくいという特有の難しさがあります。この記事では、Googleマップ等の口コミへの対応方針、名誉毀損の成立要件、情報流通プラットフォーム対処法に基づく削除請求と発信者情報開示命令、返信するときの守秘義務、医療広告ガイドラインとの関係までを、条文と公的資料に基づいて整理します。
医療機関の口コミ・SNS投稿は、虚偽の事実の摘示や人格攻撃、職員の個人情報の晒しを含むものに絞って、プラットフォームの申出窓口への申出、送信防止措置の依頼、削除の仮処分、発信者情報開示命令の順で対応します。根拠は情報流通プラットフォーム対処法(2025年4月1日施行の改正で旧プロバイダ責任制限法から改称)の3条・5条・8条・15条・16条・22条〜25条と、刑法230条・民法709条で、実際の受診体験に基づく低評価は削除できないことが前提です。
口コミ・SNSへの対応方針 ― 「削除」「返信」「特定」の3つの選択肢
口コミやSNSの投稿を見つけたとき、医療機関が取り得る対応は「削除を求める」「返信する」「投稿者を特定して責任を追及する」の3つです。どれを選ぶかは、投稿の内容と実害の程度で決まります。最初に行うべきは、感情的な反応ではなく、投稿の保全と事実の照合です。
- 保全:URL、投稿日時、投稿者名(アカウント名)、投稿内容が分かる形でスクリーンショットを保存します。削除されると発信者の特定が難しくなるため、保全は発見当日に行います。
- 照合:投稿の日時・内容と、予約記録・診療録・会計記録を照合し、「どの一文が、どの事実とどう違うか」を特定します。受診の事実がない者の投稿か、受診はあるが内容が虚偽か、受診も内容も事実で表現が厳しいだけか、の3つに分類します。
- 方針決定:実害(予約減、職員の離職、他の患者からの問い合わせ)と投稿の継続性を踏まえ、削除で止めるか、特定まで進むかを決めます。
| 投稿の類型 | 削除請求 | 返信 | 発信者の特定 |
|---|---|---|---|
| 受診の事実がない者による投稿(競合・無関係の第三者) | 可能性が高い | 不要(削除を優先) | 反復・悪質なら検討 |
| 受診はあるが具体的事実が虚偽(「説明が一切なかった」「違法な請求をされた」等) | 記録と対比できれば可能 | 守秘義務に配慮した一般的な返信 | 金銭要求や反復があれば検討 |
| 職員の実名・容姿・人格への攻撃、院内写真の無断掲載 | 可能性が高い | 不要 | 職員保護の観点から積極的に検討 |
| 実際の体験に基づく低評価(待ち時間、接遇、説明不足の感想) | 原則として困難 | 改善の姿勢を示す返信が有効 | 対象外 |
最初の一手は保全と照合です。投稿を「受診の事実がない」「事実が虚偽」「表現が厳しいだけ」に分類すると、削除・返信・特定のどれを選ぶかが自然に決まります。
名誉毀損・業務妨害が成立する要件 ― 真実の低評価は違法ではない
削除請求も発信者情報開示も、投稿が医療機関の権利を侵害していることが出発点です。中心となるのは名誉権の侵害で、刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処する」と定めています。「事実の有無にかかわらず」とあるとおり、真実であっても名誉毀損は成立し得ますが、230条の2により、公共の利害に関する事実について専ら公益を図る目的で行われ、真実であることの証明があれば処罰されません。医療機関の診療内容や接遇は、患者が医療機関を選ぶための情報として公共性が認められやすく、実際の受診体験に基づく具体的な低評価は、表現が厳しくても違法とは評価されにくいのが実情です。
民事上は、故意または過失により他人の権利を侵害した者は損害を賠償する責任を負い(民法709条)、名誉侵害では財産以外の損害(慰謝料)も対象になります(710条)。裁判所は損害賠償に代えて、または併せて、謝罪広告など名誉を回復するのに適当な処分を命じることもできます(723条)。このほか、虚偽の風説を流布して信用を毀損し、または業務を妨害する行為は信用毀損・偽計業務妨害(刑法233条)、事実を摘示せずに公然と侮辱する行為は侮辱罪(231条)に当たります。名誉毀損と侮辱は親告罪です(232条)。
実務上、削除や開示が認められやすいのは、①受診の事実がない者の投稿、②具体的事実(「検査をしなかった」「無断で薬を変えた」など)が診療録と照合して虚偽であるもの、③「詐欺」「犯罪者」といった人格攻撃、④職員の実名・容姿への攻撃や個人情報の晒しです。「待ち時間が長い」「態度が冷たい」といった感想は意見・論評の域を出ないため、削除請求が通る可能性は低いと考えてください。
削除請求の手順 ― 申出窓口・送信防止措置の依頼・仮処分
削除の枠組みを定めるのは、情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)です。旧プロバイダ責任制限法が改正され、2025年4月1日施行で名称も改められました。削除は次の3段階で進めます。
段階1:大規模プラットフォームの申出窓口
総務大臣の指定を受けた大規模特定電気通信役務提供者は、権利を侵害されたとする者が侵害情報送信防止措置の申出を行うための方法を定めて公表しなければならず(同法22条)、申出があれば遅滞なく必要な調査を行い(23条)、申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、削除したか、削除しなかった場合はその理由を申出者に通知する義務を負います(25条)。Googleマップ等の主要なサービスはこの指定の対象であり、まず公表された窓口から申出を行います。申出には、侵害情報(どの投稿のどの部分か)、侵害された権利、侵害とする理由を具体的に書きます。
段階2:送信防止措置の依頼(書面)
窓口で削除されない場合は、侵害情報等を示して送信防止措置を依頼します。事業者が発信者に対して削除に同意するか照会し、照会を受けた日から7日を経過しても発信者が同意しない旨の申出をしなければ、事業者は削除しても発信者に対して損害賠償責任を負いません(3条2項2号)。この免責があるため、権利侵害の根拠を整えた依頼には事業者も応じやすくなります。
段階3:削除の仮処分
それでも削除されない場合は、裁判所に投稿の削除を命じる仮処分を申し立てます。医療機関側は、投稿が虚偽であることを診療録等で疎明する必要があり、守秘義務との関係で提出資料の範囲を慎重に検討します。
削除は「申出窓口(14日以内に通知)→送信防止措置の依頼(7日の照会)→仮処分」の順です。どの段階でも、「どの一文が診療録のどの記載と矛盾するか」を具体的に示せるかが成否を分けます。
発信者情報開示命令・提供命令・消去禁止命令
同じ人物が繰り返し投稿する、金銭要求と結びついている、職員が実害を受けている場合は、投稿者を特定して損害賠償請求や刑事告訴につなげます。発信者情報の開示を請求できるのは、①投稿により権利が侵害されたことが明らかで、かつ②損害賠償請求権の行使のために必要であるなど開示を受けるべき正当な理由があるときです(情報流通プラットフォーム対処法5条1項)。
現行法では、裁判所が決定で開示を命じる発信者情報開示命令(8条)を、提供命令・消去禁止命令と組み合わせ、SNS事業者と通信事業者への請求を1つの手続で進められます。
| 手続 | 条文 | 内容 | 医療機関にとっての意味 |
|---|---|---|---|
| 発信者情報開示命令 | 8条 | 裁判所が決定で、開示関係役務提供者に発信者情報の開示を命じる | 訴訟より簡易な決定手続で開示を得られる |
| 提供命令 | 15条 | SNS事業者等に、通信事業者の名称等を申立人へ提供し、申立人がその事業者に申し立てたときは発信者情報をその事業者に提供するよう命じる | 回線事業者を自力で突き止めずに手続が一本につながる |
| 消去禁止命令 | 16条 | 事件終了までの間、保有する発信者情報を消去しないよう命じる | 手続中にログが消えて特定不能になるリスクを止める |
提供命令で通信事業者の名称等の提供を受けた申立人は、提供を受けた日から2か月以内にその事業者への申立てをして通知しなければ、提供命令の効力が失われます(15条3項2号)。氏名・住所が判明すれば、投稿の停止と損害賠償を求める通知を送り、応じなければ訴訟や刑事告訴に進みます。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年で時効消滅します(民法724条1号)が、実際には時効よりも通信記録の保存期間のほうが先に問題になるため、特定まで進むと決めたら早く動くことが重要です。
口コミへの返信と守秘義務 ― 刑法134条・個人情報保護法に触れない書き方
医療機関の口コミ対応で最も注意が必要なのが返信です。投稿者を特定できたつもりで「〇月〇日に受診された△△様ですね。あの日は検査結果をご説明し……」と書いてしまうと、受診の事実や病状という要配慮個人情報(個人情報保護法2条3項の「病歴」を含む情報)を公開することになります。医師が正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らす行為は秘密漏示罪(刑法134条1項、6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)に当たり、個人データの本人同意のない第三者提供の制限(個人情報保護法27条)にも抵触します。投稿者本人が自ら書いていたとしても、医療機関側が受診の事実や診療内容を確認する返信は避けなければなりません。
返信の基本型
- 個別の受診の有無や診療内容には触れず、「個別の診療内容についてはお答えできません」と明示する。
- ご不満を与えたことへの一般的なお詫びと、院内で確認・改善に取り組む姿勢を示す。
- 直接の連絡先(事務長宛ての電話・メール)を案内し、議論を公開の場から移す。
- 投稿者への反論、人格評価、「虚偽です」という断定は書かない。虚偽の投稿には返信ではなく削除請求で対応する。
返信は今後受診を検討する患者も読むものです。冷静で簡潔な返信は医療機関の信頼につながります。職員が個人のアカウントで反論する行為は新たな名誉毀損や守秘義務違反のリスクを生むため、院内ルールで禁止しておきます。
医療広告ガイドラインとの関係 ― 口コミ対策が広告違反にならないために
口コミ対策を進めるうちに、「よい口コミを増やす」方向に踏み込むと医療広告規制に触れるおそれがあります。医療法6条の5と医療法施行規則1条の9により、患者その他の者の主観または伝聞に基づく治療等の内容または効果に関する体験談の広告は禁止されています。医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)は、医療機関が自らのウェブサイト等に掲載する治療等の内容・効果に関する体験談は広告に該当し、禁止されると明記しています。
一方、ガイドラインは、個人が運営するウェブサイト、SNSの個人のページ、第三者が運営する口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているなどによる誘引性が認められない場合は広告に該当しないとしています。つまり、患者が自発的に書いた口コミは広告ではありませんが、医療機関が謝礼や割引と引き換えに投稿を依頼した場合は誘引性が認められ、治療効果に関する体験談であれば禁止広告に当たります。次の行為は避けてください。
- 口コミ投稿と引き換えに割引・粗品・ポイントを提供する。
- 職員や家族に高評価の口コミを書かせる、業者に投稿を依頼する。
- 口コミサイトの高評価の体験談を、自院のウェブサイトやSNSに転載する。
- 低評価の投稿者にだけ「削除してくれたら返金する」と持ちかける(別の紛争を生みます)。
口コミへの対応は、情報流通プラットフォーム対処法・刑法・個人情報保護法・医療広告規制が同時に関わる領域です。当事務所には医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士が在籍しており、診療録と投稿を照合して虚偽の部分を特定する作業から、削除請求・開示命令の申立て、守秘義務に配慮した返信文の作成、口コミ運用ルールの整備まで、チャット・オンラインで全国の医療機関に対応しています。
よくある質問(FAQ)
Googleマップの星1つの口コミは削除できますか。
口コミに「〇〇医師は誤診した」と書かれました。カルテを示して反論してよいですか。
投稿者を特定するまでにどのくらいかかりますか。
患者に口コミの投稿をお願いするのは問題ありますか。
SNSで職員の実名と顔写真が晒されています。医療機関として何をすべきですか。
削除請求と発信者の特定は、どちらを先にすべきですか。
まとめ
- 最初の一手は投稿の保全と診療録との照合。「受診の事実がない」「事実が虚偽」「表現が厳しいだけ」に分類して、削除・返信・特定を選ぶ。
- 実際の受診体験に基づく低評価は削除できない。削除・開示の対象は、虚偽の事実、人格攻撃、職員の個人情報の晒し。
- 削除は情報流通プラットフォーム対処法の申出窓口(14日以内の通知義務)→送信防止措置の依頼(7日の照会)→仮処分、特定は開示命令・提供命令・消去禁止命令。
- 返信で受診の事実や診療内容に触れると秘密漏示罪・個人情報保護法違反のおそれ。個別の診療内容には答えないと明示した一般的な返信にとどめる。
- 謝礼と引き換えの口コミ依頼や体験談の転載は医療広告ガイドライン違反になり得る。
口コミ・SNSの誹謗中傷は、初動で「削除で止めるか、特定まで進むか」を決め、守秘義務を守りながら進める必要があります。当事務所の顧問弁護士サービスでは、口コミ運用ルールの整備、返信文の確認、削除請求・発信者情報開示命令の申立てまでを継続的に支援しています。「この投稿は削除できるのか」と迷う段階でも、お問い合わせ(無料相談)からお気軽にご相談ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
