医薬品・医療機器の広告は、「誰が」「どの媒体で」「何を」言うかのすべてに薬機法の網がかかります。製品サイトやSNS、学会ブースの資料、営業担当者の口頭説明まで規制の対象になり得るうえ、2021年8月からは虚偽・誇大広告に対する課徴金制度も動いています。この記事では、薬機法66条・67条・68条の内容、医薬品等適正広告基準で禁止される表現、医療用医薬品の販売情報提供活動のルール、課徴金の計算と減額の仕組みを、条文と厚生労働省の通知に沿って整理します。
薬機法66条は「何人も」医薬品等の名称・製造方法・効能効果・性能について虚偽・誇大な広告をしてはならないと定め、68条は承認・認証前の医薬品・医療機器の広告を禁止しており、違反には2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金(85条)に加えて、対象期間中の売上額の4.5%の課徴金(75条の5の2)が課されます。実務の基準は医薬品等適正広告基準(平成29年9月29日付け通知)と、医療用医薬品については販売情報提供活動ガイドライン(平成30年9月25日付け通知)で、承認範囲内・根拠あり・保証や最大級表現なしが共通の軸です。
「広告」に当たるかの3要件と規制の全体像
厚生労働省(当時の厚生省)は、「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」(平成10年9月29日付け医薬監第148号)で、①顧客を誘引する(購入意欲を昂進させる)意図が明確であること、②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること、③一般人が認知できる状態であること、の3要件をいずれも満たす場合を広告と判断する考え方を示しています。製品サイト、ECの商品ページ、SNS投稿、動画、学会ブースのパネル、医療機関向けのパンフレット、さらにインフルエンサーに依頼した投稿も、3要件を満たせば広告です。医薬品等適正広告基準も、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ・ウェブサイト・SNS等のすべての媒体を対象と明記しています(基準第2)。
薬機法の広告規制は3つの層で考えると整理しやすくなります。第1層は法律の禁止規定(66条・67条・68条)、第2層はその解釈運用基準である医薬品等適正広告基準とその解説通知、第3層は医療用医薬品の販売情報提供活動ガイドラインや各種Q&Aです。監視指導は都道府県等が中心で、重大な違反には措置命令・課徴金納付命令・刑事罰が用意されています。
薬機法66条・67条・68条 ― 虚偽誇大広告・特殊疾病用医薬品・承認前広告
| 条文 | 主体 | 禁止・制限の内容 | 違反時の罰則等 |
|---|---|---|---|
| 66条1項(誇大広告等) | 何人も | 医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果または性能について、明示的・暗示的を問わず、虚偽または誇大な記事を広告・記述・流布すること | 2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、または併科(85条4号)。課徴金納付命令(75条の5の2)。措置命令(72条の5) |
| 66条2項 | 何人も | 効能効果・性能について医師その他の者が保証したものと誤解されるおそれのある記事の広告等は1項の誇大広告に当たる | 同上 |
| 66条3項 | 何人も | 堕胎を暗示し、またはわいせつにわたる文書・図画の使用 | 2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金(85条4号) |
| 67条(特殊疾病用医薬品等の広告の制限) | 指定された医薬品・再生医療等製品の広告をする者 | がん・肉腫・白血病(施行令64条)に使用され、医師等の指導の下でなければ危害のおそれが特に大きい医薬品等について、省令で一般人向けの広告方法を制限 | 1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金(86条1項17号) |
| 68条(承認前広告の禁止) | 何人も | 承認・認証を受けていない医薬品・医療機器・再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果または性能に関する広告 | 2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、または併科(85条5号)。措置命令(72条の5) |
66条と68条の主体が「何人も」である点は重要です。製造販売業者だけでなく、販売代理店、卸売販売業者、広告代理店、メディア、インフルエンサーも違反の主体になり得ます。68条は、開発中の製品について学会発表や投資家向け資料で名称・効能を示す場面でも問題になるため、承認前の情報発信には「広告の3要件を満たさない形」の設計が必要です。治験の被験者募集の情報提供については厚生労働省が別途取扱いを示しています。
医薬品等適正広告基準の要点 ― 禁止される表現と考え方
医薬品等適正広告基準(平成29年9月29日付け薬生発0929第4号)は、66条から68条の運用基準として、都道府県等の監視指導の物差しになっています。同日付けで「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」(薬生監麻発0929第5号)が出ており、個別表現の可否はこの解説で確認します。基準第4が定める主な内容は次のとおりです。
| 項目(基準第4) | 内容 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 1 名称 | 承認・認証を受けた名称または一般的名称以外の名称を使わない。承認等を要しない品目は届け出た販売名・一般的名称 | 愛称やシリーズ名を単独で使う場合は一般用医薬品・医薬部外品の共通ブランドの例外に当たるかを確認 |
| 2 製造方法 | 実際と異なる表現、優秀性について事実に反する認識を与える表現の禁止 | 「特許製法」「独自技術」などは裏付け資料を確認 |
| 3(1)(2) 効能効果等の範囲 | 承認等を要する品目は承認範囲を超えない。要しない品目は医学・薬学上認められた範囲、化粧品は効能の範囲の通知内 | 承認書・認証書の「使用目的又は効果」と広告文を一対一で照合 |
| 3(5) 保証表現の禁止 | 具体的な効能効果・安全性を摘示して確実である保証をする表現の禁止 | 「必ず効く」「副作用はありません」「安全性は確認済み」はこの類型 |
| 3(6) 最大級表現の禁止 | 効能効果・安全性について最大級またはこれに類する表現の禁止 | 「最高の効果」「No.1」「最も安全」 |
| 3(7)(8) 発現程度・本来の効能以外の表現 | 速効性・持続性は医学・薬学上認められた範囲。本来の効能と認められない効能の表現禁止 | 「すぐ効く」「一度で」や、承認外の美容的効果の示唆 |
| 5 医療用医薬品等 | 医師等が自ら使用し、または処方・指示で使う医薬品等は一般人向け広告を行わない。一般人が使うと危害のおそれがある医療関係者向け医療機器も同様 | 製品サイトの一般公開部分に医療用医薬品の効能を載せない設計 |
| 6 一般向け広告 | 医師等の治療によらなければ治癒が期待できない疾患について、医師等によらずに治癒できるかのような表現の禁止 | 一般用医薬品・医療機器の疾患名の扱い |
| 9・10 他社誹謗・推せん | 他社製品を誹謗する広告、医薬関係者・病院・薬局・学会等が推せん・指定・公認している旨の広告の禁止 | 比較広告、医師監修・推奨の表示は原則不可 |
| 12 不快・不安・恐怖 | 不快・迷惑・不安・恐怖を与えるおそれのある表現の禁止。電子メール広告は連絡先表示、広告である旨の件名表示、受信拒否方法の表示 | 疾患リスクをあおる訴求、メールマーケティングの体裁 |
| 14 美容器具的・健康器具的用法 | 医療機器について美容器具的・健康器具的用法を強調し安易な使用を助長する広告の禁止 | 家庭用医療機器の訴求軸 |
広告審査の基本動作は、承認書・認証書の記載と広告文を一対一で照合し、保証・最大級・推せん・比較・不安訴求の5類型を機械的に外すことです。承認範囲の中で言える事実と根拠資料を先に固める方が、結果として訴求力のある広告になります。
医療用医薬品・医療機器の販促活動 ― 一般人向け広告の制限と販売情報提供活動ガイドライン
医療用医薬品は、適正広告基準第4の5により一般人を対象とする広告ができません。医療関係者向けの販促活動は許されますが、口頭説明や研究論文の提供など証拠が残りにくく広告該当性の判断が難しい行為が問題となったことから、厚生労働省は「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(平成30年9月25日付け薬生発0925第1号)を策定しました。対象は医薬品製造販売業者に加え、販売情報提供活動の委託先・提携先企業(コ・プロモーションの相手先を含む)と医薬品卸売販売業者で、MRやメディカル・サイエンス・リエゾンといった名称や所属部門を問わず、会社が雇用する全ての者に適用されます。疾患啓発(一般人向けを含む)も販売情報提供活動に含まれます。
活動の原則
- 提供する効能・効果、用法・用量等の情報は承認された範囲内であること。有効性だけでなく副作用を含む安全性の情報も提供し、情報を恣意的に選択しないこと。
- 科学的・客観的な根拠に基づき、引用元を明記すること。社外の調査研究に資金・労務等を提供した場合はその内容も明記すること。
- 承認外の使用方法の推奨(外国で承認があっても同様)、根拠のない特定製品への誘引、他社製品の誹謗、罹患や症状を過度に強調して不安をあおること、医療用医薬品以外に治療手段がないかのような誤認を招く疾患啓発をしないこと。
- 比較試験では試験設計と結果を正確に示し、優位性を示せなかったなどネガティブな情報も提供すること。
社内体制
経営陣には、販売情報提供活動の担当部門から独立した「販売情報提供活動監督部門」の設置、社外者を含む審査・監督委員会の設置、資材等の使用前審査、担当者の評価・教育、手順書と業務記録(口頭説明の内容の記録を含む)の作成・保管、外部から認識できる苦情窓口の設置が求められます。未承認薬・適応外薬の情報は、医療関係者等から求めがあった場合に、通常の活動と切り分け、要求内容と要求者に限定し、承認を受けていないことを明示し、記録を残すなどの条件を全て満たす場合に提供できます。厚生労働省は販売情報提供活動監視事業で医療機関からの通報を集めており、違反事例は毎年度公表されています。
医療機器についても、医療関係者が自ら使用する機器で一般人が使うと危害のおそれがあるものは一般人向け広告が制限され(基準第4の5(2))、「医療機器の広告について」(平成22年8月17日付け通知)が具体的な留意点を示しています。医療機関側の広告規制(医療広告ガイドライン)とは別の体系ですので、医療機関と共同で情報発信する場合は双方の規制を確認してください。医療機関側の規制は事務所本体サイトのコラム「医療広告の注意点 ― 医療法・薬機法・景表法・特商法の観点から」で解説しています。
課徴金制度 ― 売上額の4.5%、対象期間、減額と除斥期間
令和元年12月4日公布の改正薬機法で導入された課徴金制度は、2021年(令和3年)8月1日に施行されました。厚生労働大臣は、66条1項に違反する行為(課徴金対象行為)をした者に対し、課徴金対象期間に取引をした当該医薬品等の対価の額の合計額に4.5%を乗じた額の課徴金の納付を命じなければなりません(75条の5の2第1項)。命令は裁量ではなく原則として義務です。
- 対象期間:違反行為をした期間に、違反をやめた後6か月以内(誤解を解消する措置を取った日まで)に行った取引の期間を加えた期間で、最長3年間です(75条の5の2第2項)。
- 命令しないことができる場合:業務改善命令や措置命令をする場合で保健衛生上の危害への影響が軽微なとき、許可取消し・業務停止命令等の処分をするときです(同条3項)。
- 規模基準:計算した課徴金額が225万円未満(売上額5,000万円未満に相当)のときは命じることができません(同条4項)。
- 減額:同一事案で景品表示法の課徴金納付命令があるときは対価合計額の3%を控除し(75条の5の3)、違反事実を調査前に自主的に報告したときは50%を減額します(75条の5の4)。
- 除斥期間:違反行為をやめた日から5年を経過すると命じることができません(75条の5の5第7項)。
算定の実務は「課徴金納付命令に係る対価合計額の算定の方法について」(令和3年7月6日付け通知)とそのQ&Aが示しています。違反に気づいた時点で表示を是正し、自主報告による減額を検討する初動が重要です。
措置命令・刑事罰・景品表示法との関係と社内体制
厚生労働大臣または都道府県知事は、66条1項・68条に違反した者に対し、行為の中止、再発防止に必要な事項、公示などを命じることができ、違反行為がすでに終わっていても、合併後の法人や事業の譲受人に対しても命令できます(72条の5第1項)。インターネット上の違反広告については、特定電気通信役務提供者に送信防止措置を要請する規定もあります(同条2項)。措置命令違反は2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金です(85条6号)。
医薬品等の広告は、景品表示法の優良誤認表示や、健康増進法の虚偽誇大表示の規制と同時に問題になることがあり、薬機法の課徴金と景表法の課徴金が重なる場合の調整規定(75条の5の3)が置かれているのはそのためです。社内体制としては、①承認書・認証書と広告文の照合を含む広告審査手順、②薬事・法務・マーケティングの役割分担と承認権限、③販売代理店・広告代理店・インフルエンサーとの契約に広告規制の遵守と事前審査を義務付ける条項、④違反発覚時の是正・自主報告・記録の初動フロー、を整えておくことが有効です。
広告違反の主体は「何人も」です。自社の審査を通っていない代理店やインフルエンサーの表現でも、製造販売業者が措置命令や課徴金の名宛人になり得ます。委託先・取引先の広告を自社審査に乗せる契約条項が、最も費用対効果の高い防御策です。
よくある質問(FAQ)
医療関係者限定のウェブサイトなら医療用医薬品の効能を掲載できますか?
承認申請中の製品について、学会やプレスリリースで製品名と効能を発表しても大丈夫ですか?
「医師が推奨」「大学と共同研究」と書くことはできますか?
課徴金はどのくらいの金額になりますか?
販売代理店が勝手に誇大な広告をした場合、メーカーも責任を負いますか?
SNSのインフルエンサーに製品紹介を依頼する場合の注意点は?
まとめ
- 広告該当性は、顧客誘引の意図、商品名の明示、一般人が認知できる状態の3要件で判断され、SNSや口頭説明、インフルエンサー投稿も対象になる。
- 薬機法66条(虚偽・誇大広告)と68条(承認前広告)の主体は「何人も」で、違反は2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金(85条)と措置命令(72条の5)の対象になる。
- 医薬品等適正広告基準は、承認範囲内の効能効果、保証表現・最大級表現・推せん・他社誹謗・不安訴求の禁止、医療用医薬品の一般人向け広告の禁止を定める。
- 医療用医薬品の販売情報提供活動ガイドラインは、承認範囲内・根拠あり・ネガティブ情報も提供を原則に、独立した監督部門、審査・監督委員会、資材の事前審査、業務記録、苦情窓口を求める。
- 課徴金は対象期間(最長3年)の売上額の4.5%で、225万円未満は不命令、景表法課徴金との調整3%、自主報告で50%減額、除斥期間5年。2021年8月1日施行。
当事務所は、医師免許と弁護士資格を併せ持つ弁護士を含む企業法務の弁護士チームで、広告・販促資材の薬事審査、販売情報提供活動の社内規程、代理店・インフルエンサー契約の条項設計、行政調査や課徴金手続への対応を支援しています。広告審査を継続的に相談できる体制として顧問弁護士サービスをご検討いただき、個別の表現の可否や指導を受けた場合の対応はお問い合わせ(無料相談)からご連絡ください。チャット・オンラインで全国に対応しています。
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(e-Gov法令検索)― 66条〜68条・72条の5・75条の5の2〜75条の5の5・85条・86条
- 同法施行令(e-Gov法令検索)― 64条(特殊疾病)
- 医薬品等の広告規制について ― 適正広告基準・販売情報提供活動ガイドライン・課徴金制度(厚生労働省)
- 医薬品等適正広告基準の改正について(平成29年9月29日付け薬生発0929第4号)(厚生労働省)
- 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて(平成30年9月25日付け薬生発0925第1号)(厚生労働省)
- 虚偽・誇大広告による医薬品、医療機器等の販売に係る課徴金制度の導入について(厚生労働省)
- 薬事法における医薬品等の広告の該当性について(平成10年9月29日付け医薬監第148号)(厚生労働省)
※ 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言・医学的助言ではありません。法令・制度・通知の内容は公開日時点のものです。具体的なご対応にあたっては、最新の法令・通知をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
